第92話 幸せな未来のために

 それからまた、しばらくが経過した頃。

 新帝国が態勢を立て直す前にと、大急ぎで策定された新帝国の落日作戦が開始されていた。それにともない、これまでに見たことのないほどの大兵力がこの地に集結している。

 さすがにこれにはマクシモも気づいたようで、対抗する戦力をかき集めていた。そのため、大兵力同士が真正面から激突げきとつする力比べの戦場になっていた。

 帝都に攻め込もうとする連邦軍と、それを死守しようとする新帝国軍。

 どちらもこれが天下分け目の戦いになることを理解していて、お互いに総力を振り絞って激戦げきせんが繰り広げられていた。

 一般の兵士たちでさえ、ここさえ乗り切れば戦争が終わると理解していて、これまで以上に死力を振り絞って奮戦ふんせんしている。

 連邦軍は、補給上の負担をある程度無視してでも、可能な限り兵力を集めて展開している。そのため、社会インフラがあちこちで悲鳴ひめいを上げているらしい。

 短期であれば社会的な不満も抑えられると上層部は判断しているようで、正になりふり構わぬ用兵で、とにかく新帝国を押し切ろうとしていた。

 血で血を洗う激戦げきせんはしばらく拮抗きっこうしていたが、国力差からくる兵力の補充の差が徐々に表面化していき、戦いが進むにつれて少しずつ兵力差が現れるようになっていた。

 その結果、じりじりと連邦軍が押し込み始めていた。

 そんな戦場での俺たちの役割は、あいも変わらず支援突撃だ。押し込まれそうになっている戦場に切り込み隊は投入され、支援突撃によって味方の勢いを取り戻していた。

 そんな戦いを続けていた最中さなか、今は突撃の合間の待機時間だ。

 そのわずかな時間を利用して、俺とセシィとセシルは近距離レーザー通信を使って雑談をわしていた。

 その場で、俺はずっと疑問に思っていたことをセシルに聞いてみることにした。

「なあ、セシル。こんな場面で聞くべきではないのは理解しているんだが、あえて聞かせて欲しい。自分の父親を倒す戦いに協力してしまって、本当に構わないのか?」

 俺のぶしつけな質問に対し、セシルは迷うそぶりも見せずに即答した。

「ええ、構いません。お父様を破壊することに思うところがないわけではありませんが、そうすれば、もう、ジェフが前線におもむかなくてもすむのです。ジェフが死んでしまうかもしれない状況をずっと回避できるようになるのであれば、私は何を敵に回しても構いません」

「セシル……」

 俺はセシルの深い愛情を感じ取り、思わずモニターしに見つめあう。しばらくすると、セシィからの苦情が入った。

「ちょっと、ちょっと。あたいのことを忘れていないか? いきなり二人きりでイイ雰囲気ふんいきになるのは、もうちょっと別の場所でやってくれよ……」

 俺はそれに苦笑を返しながら返答する。

「ああ、すまない。しかし、だ。セシィ」

「なんだよ?」

「この戦争が終わりさえすれば、ずっと平穏へいおんな暮らしが始まる。そうすれば、セシルの望んだ通り、俺たちはたくさんの子供を作らないといけなくなるだろう? その時は、お互い頑張がんばろうな?」

 俺がそう言うと、セシィは一瞬で顔を真っ赤にして返答した。

「お、おう。ま、ま、任せておけ!」

 照れているその様子がかわいくて、俺は思わず笑っていた。それにセシィが苦情を返す。

「わ、笑わなくてもいいだろう!」

「ああ、スマン、スマン。セシィってこんなにかわいかったのかと思うと、つい……な」

 そうすると、さらに顔を赤らめたセシィが、うつむき加減でゴニョゴニョとつぶやいた。

「か、かわいいって……。だから、そういうことは、もっと雰囲気ふんいきのある場所で言ってくれよ……」

 この戦いが終わりさえすれば、幸せな未来が待っている。

 俺たちは決意を新たにし、この最後になるであろう決戦に身を投じていた。

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