第90話 新帝国の落日

 それから季節が過ぎ、秋になったころ。

 連邦軍は順調に前線を押し上げていた。特に南部戦線においては、新帝国の本土近くにまで迫る勢いだった。

 しかし、その分全体の前線がコンパクトになったため、それに反比例するように敵の密度が増大していた。

 さらに、今までは知られていなかった工場が、おそらくは地下にあるのだろうと言われている。

 兵器生産工場はあらかた破壊していたが、それでもどこからともなくブリキ野郎が補充されていくことと、衛星画像の解析でも工場の所在が不明なことから、そのように言われている。

 これらの要因により、じりじりと戦況せんきょうが再び膠着こうちゃくし始めていた。

 そんな情勢の中、俺とセシルに会議への出頭命令が下った。その命令によると、セシルに新帝国の内情についての意見を聞きたいのだとか。俺はその付き添いというか、まあ、おまけのようなものだろう。

 その会議の席で、進行役と思われるお偉いさんが、セシルに質問を始めた。

「セシル嬢に聞きたい。地下にあると思われる工場について、なにか思い当たる情報はないか?」

 しばらく考えるそぶりを見せるセシル。おそらくは、頭の中の情報を検索しているのだろう。

「……私の知っている範囲の情報には、該当するものがありません。おそらくは、新しく建設されたものだと推測されます」

 その回答を受け、どのあたりの地域が怪しいのかを中心にして議論が進んでいく。その様子をしばらく眺めていたが、俺は意を決して手を上げ、発言の許可を求める。

「なにか思い当たる点があるのか?」

 それを見たさっきのお偉いさんが、俺に発言の許可をくれる。

「あくまでも前線の一兵士としての感想なのですが、ここまで来たら、どこにあるのか不明な工場を探して叩くよりも、そこに確実にある目標を全力で叩き潰すべきだと愚考ぐこういたします」

「ふむ……。具体的には?」

「新帝国の首都、帝都に存在するマクシモの本体を叩くべきです。そうすれば、このくだらない戦争は終わります」

 俺のこの発言を受け、ザワつき始める会議場。それを見ていた一番のお偉いさん、南部方面軍の総司令官閣下がセシルに直接質問を始めた。

「セシル嬢に確認したいのだが、マクシモの本体が帝都の地下にあるのは間違いないか?」

 それにうなずきを返しながら肯定するセシル。

「はい。間違いありません」

 総司令官閣下は、さらに質問を重ねる。

「では、地下にあるマクシモを確実に吹き飛ばす方法に心当たりはないか?」

 その質問に対し、セシルは口をつぐみ、目を閉じてしばらく考えをまとめていた。やがて目を開け、回答を始める。

「マクシモの稼働かどうには大量の魔力が必要になります。そのため、魔石を大量に詰め込んだ魔力タンクが存在します。そのプログラムを一部書き換え、魔力を暴走させて爆発させれば、計算上はマクシモのあるあたり一帯を破壊できます」

「計算上とは?」

「いくつかの前提ぜんてい条件じょうけんを満たす必要があります」

 そして、一拍あけてからその条件に付いて説明を始めるセシル。

「まずプログラムですが、魔力タンクの近くのコンソールを直接操作する必要があります。そして、マクシモに察知さっちされる前に書き換えようとすれば、おそらく普通の人類では不可能です。ですので、私が直接そのコンソールのある場所まで出向く必要があります」

 その回答を受け、今度は総司令官閣下が黙考もっこうを始めた。しばらくして、追加の質問をする総司令官閣下。

「そのコンソールまではどうやって侵入する?」

通風口つうふうこうが使えます。人工知能に呼吸は必要ありませんので、今では放置されているはずです」

 このやり取りがたたき台となり、新しい大規模作戦、新帝国の落日作戦が策定されることになる。

 人類と人工知能の存亡をかけた戦いは、こうして最終局面へと移行することになる。

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