第87話 灰燼の都市

 敵の前線を無事に突破した俺たちフェルモ連隊は、そのまま各機にインストールされている地図をウィンドウに表示し、手近てぢかな街道を目指す。

 スピードを維持したまま駆け抜け、街道に出ると、そのまま真っすぐにチェルヌィフの都市へと進軍を続けた。

 ここからはスピード勝負だ。敵が態勢を立て直し、こちらの妨害を開始する前に都市を一つ灰燼かいじんに帰さなければならない。

 そんなことを考えながら街道を疾走しっそうし、しばらくすると、目的地であるチェルヌィフの都市が見えてきた。

手筈てはず通りに散開! 都市を全周包囲せよ!!」

 フェルモの指示を聞くや否や、そのままスピードを落とさずに部隊が二つに分かれ、それぞれ右回りと左回りで都市を素早く包囲する。

 包囲が完了するとすぐにフェルモの機体から作戦開始の信号弾が上がる。それと同時にフェルモが外部スピーカーを最大ボリュームにして叫んだ。

「主砲、副砲、レーザー、とにかく全砲門でぶっ放せ!! あの都市をがれきの山に変えろ! 狙いなんざ適当でいいんだよ! 撃って撃って撃ちまくれぇ!!」

 その声を合図に、全機が全砲門を開く。一門の主砲、二門の副砲、六門のレーザーを全て使用し、形あるものを破壊し続ける。

 通常、主砲には対戦車用のてっ甲弾こうだんが使われるが、この時のために用意した榴弾りゅうだんと呼ばれる砲弾も使用し、広範囲を破壊しながら火災も同時に発生させる。

 全機が全力で撃ちまくり、少しでも形のあるものを全て破壊していく。

 時間的な余裕のなさから、この都市に住んでいた人たちが今どこにいるのかまでは不明だ。

 おそらくはどこかの収容所に移送されて、家畜として扱われているのであろうことまでは分かっている。しかし、どこにその収容所があるかまでは、セシルの頭脳にも情報がなかった。

 そのため、俺は思わずつぶやいていた。

「ここに人がいないことをいのるしかないな……」

 そうすると、いつの間にか近距離レーザー通信をつないでいたセシィが、俺の独り言に返答してくれた。

「いたとしても、だ。軍の上層部の判断に変更はなかっただろうさ。いずれにせよ、ジェフが気に病むことじゃないぜ」

 俺と同じ苦悩くのうを抱えているであろうセシィが、つとめてなんでもない風をよそおい、はげましてくれる。

 そんな姿がとてもいとおしくなり、俺は思わず、戦場のど真ん中であることを忘れ、感謝の意を示していた。

「ありがとう、セシィ。愛しているよ」

 そうすると、セシィは顔を真っ赤にし、あたふたしながら叫んだ。

「なっ……! そ、そ、そういうことは、もっと雰囲気ふんいきのある場所で言ってくれ!!」

 俺はそれに微笑ほほえみを返しながら、仕事を続ける。

 しばらくすると、目に見える範囲の構造物はあらかた破壊できた。それでも気を抜かずにさらに念入りに攻撃を加えていると、フェルモからの信号弾が上がる。

 内容は──作戦終了、撤退てったい開始。

 フェルモは同時に、外部スピーカーを使って音声でも指示を伝える。

「作戦終了! 野郎ども、撤退てったいだ! おうちに帰るまでが戦争だ! まだ気を抜くなよ!!」

 こうして俺たちは今回の作戦をすみやかに完了し、帰還を始めた。

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