第86話 新帝国の黄昏

 それから俺たちフェルモ連隊に所属するメンバーは大急ぎで連携れんけい訓練くんれんを終え、前線に来ていた。

 俺たちの仕事は近接戦闘開始後になる。まずはチェルヌィフの都市までの道を切り開くことだ。そのため、最前線から少し後方に陣取って待機している。これは、突撃前に助走をつけるための距離でもある。

 俺たちの陣形は、俺を先頭にした楔形くさびがただ。俺の左右の少し後ろにセシィとセシルが位置していて、ウォルターはもう少し後ろで大隊の指揮をっている。

 いつも通りの手順で始まった戦争は順調に推移していき、いよいよ突撃命令が下されるかと思われた直後、手筈てはず通りに俺たちの前にいた味方の部隊が左右に分かれ、道をあけてくれる。

 ここで、近距離レーザー通信網から連隊長の命令が下った。

「フェルモ連隊、突撃開始! とにかくスピード重視で突っ切れぇ!!」

 いつもの軽い感じは完全に鳴りをひそめ、猛将らしい獰猛どうもうな声で突撃を命じるフェルモ連隊長。

 俺はその命令に従い、前進を始める。その俺に従い、連隊の仲間たちもを進める。

 少しずつスピードを上げていき、やがてオルランドⅠ型でついてこられる最大速度に達する。

 同時に、一台のブリキ野郎が目の前に現れる。

 俺は進路を少し右にずらし、盾を使ってはじき飛ばして後方へ送る。

 そうすると、味方の機体も衝突しょうとつコースを避けて少し進路をずらし、すれ違いざまに攻撃を一撃ずつ加えていく。まるで流れ作業のようにしてブリキ野郎を次々とスクラップへと変えていく。

 さすがは人類の中でもりすぐりの最精鋭たちだ。誰一人として足を止めることなく、トップスピードを維持したまま戦場を駆け抜けていく。

「ヒャッハー! 進め進め! フェルモ連隊のお通りだぁ!!」

 フェルモが妙なテンションで外部スピーカーを使って叫んでいる。その直後、セシィから近距離レーザー通信が入る。

「いくら敵のど真ん中を突っ切っているからって、キャラが変わりすぎじゃないか?」

 俺はそれに苦笑を返しながら返答する。

「まあ、あれでも猛将として名高い人だからな。平時の方が猫をかぶっていて、むしろ今の方が本性むき出しなのかもしれないぞ?」

 俺たちはそんな会話をぜながらも進み続ける。ブリキ野郎を右に左にと次々にはじき飛ばし、スクラップに変え続けていく。

 どれほどそれを続けただろうか。はじき飛ばしたブリキ野郎の数を数えるのをやめたころ、だんだんと敵の密度が下がり始めた。

 それからさらに進み続けると、やがてブリキ野郎のいない平野部へとたどり着いた。

 その時、連隊長からの新たな命令が、外部スピーカーを使って伝えられる。

「よし! 前線を突破したぞ!! 各自、当初の手筈てはず通りにこのままの速度を維持、速やかにチェルヌィフの都市を目指せ!!」

 こうして俺たちの作戦は第一段階を無事に終え、次の局面きょくめんへと移った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る