第85話 フェルモの横顔

「それでは、続けてフェルモ連隊長による挨拶あいさつに移ります」

 そう言って、僕に登壇とうだんするようにうながしているのは、ここまでに行われた自己紹介によると、カール・パターソンという青年だ。

 彼はお祭り好きな性格らしく、こういった席では、いつも自ら幹事を引き受けるのだとか。

「最初に断っておくと、僕は堅苦かたくるしいのが嫌いでね。それに、北部出身の君たちも上下関係はゆるいと聞いているよ。だから、さ。この親睦会しんぼくかいでは、僕に対して敬語を使ったり、連隊長と呼んだりするのは禁止ね。破った人は、罰ゲームだよ」

 僕が軽くそう言うと、笑いが起こった。つかみは上々のようだ。

「じゃあ、連た……じゃなかった、フェルモ。その罰ゲームってのは、どんなものなんだい?」

 司会進行役のカールがそうたずねてきた。僕はそれに、あらかじめ用意していた内容を語る。

「そうだね。じゃあ、僕に敬語を使うたびに、手に持っているグラスを飲み干してもらおうかな」

 僕がそう言うと、ジェフの大隊のメンバーの視線が、ある丸顔の一人の青年へと集中した。

 あれは確か、中隊長のエルトン・ブラウズだね。みんなどうしたんだろう?

 僕がそう思っていると、みんなを代表してジェフが説明をしてくれた。

「フェルモ。その内容だと、エルトンにとってはご褒美ほうびにしかならないぞ?」

「そうなの?」

 僕がそう確認をとると、みんなうなずいている。

 そう言えば、エルトンは大酒飲みだって言っていたね。

 僕がそんなことを思い出していると、ジェフが続けて対案を提示してくれた。

「エルトンは酒好きだからな。だからその罰ゲームだと、わざと間違いかねない。そうだな……。エルトンだけは、罰ゲームの内容を変更して、間違えるたびに三十分間の禁酒を言い渡すというのはどうかな?」

 ああ、確かに。酒飲みには酒を飲まさない方が罰になるだろうね。

 僕はそう納得し、それを了承した。

「じゃあ、エルトンだけは、その内容でよろしく」

 僕がそう宣言すると、エルトンが情けない声を出す。

「そんなぁ……。大隊長~、俺になんの恨みがあって……」

「そう言うな。間違えなければいいだけだろう?」

 エルトンとジェフのそんな掛け合いに、みんなからの笑い声が響き始めた。

 うん。親睦会しんぼくかいの出だしは上々だね。このまま飲み会へと移行しよう。

 僕はそう判断し、用意していた挨拶あいさつの内容を全部すっ飛ばして、乾杯の合図あいずへと移る。

「場もあったまってきたことだし、退屈たいくつ挨拶あいさつ無粋ぶすいだよね。だから、さ。細かいことは抜きにして、もう飲み始めようよ。と、いうことで、乾杯!」

「「「乾杯!」」」

 飲み始めると、罰ゲームになるような発言をするものはいなくなった。

 やはり、北部出身の彼らはあまり上下関係に頓着とんちゃくしないようで、彼らのふところに入ってしまえば、とてもフレンドリーに接してくれた。

 やっぱり、親睦会しんぼくかいを開いて良かったね。酒の力は偉大だよ。

 僕はそんな感想を抱きながらみんなとさかずきみ交わしていた。

 そうしていると、やがて自然とジェフと飲むようになっていた。

 そこで僕は、ある質問をジェフにしてみることにした。

「ジェフ、相談なんだけどさ。次の作戦では敵の前線を突破する必要があるじゃない? できれば、そこにあまり時間をかけたくないんだよね。その方が、より念入りに目標を破壊できるからさ。何か、いい案はないかい?」

 僕がそう語りかけると、ジェフは驚きの提案をしてきた。

 その内容に、僕は体の底から武者震むしゃぶるいが起こりはじめた。

「そ……、そんなことが可能なのかい? 確かにそれができれば、敵陣を簡単につらぬけるだろうけど」

 僕が思わずそう確認をとると、ジェフは何でもないことのような口調で語り始めた。

「少なくとも、俺の部下たちであれば問題ないな。それに、これからフェルモ連隊につどう仲間たちも、各地域から抽出した最精鋭たちだろう? だったら、少し連携れんけい訓練くんれんを行えば、できるようになるさ」

 ああ……、いい。いいよ、ジェフ。君を先頭にして敵陣をまっすぐに切り裂いてゆく僕の連隊。

 これはもう、武者震むしゃぶるいをするなって方が無理な注文だよ。

 僕はそんなことを心の中でつぶやき、一心不乱いっしんふらんにこれからのスケジュールを考え始めた。

 ジェフのこの案を現実のものとするために、できるだけ念入りに連携れんけい訓練くんれんを行うために。

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