第84話 人類の最先鋒

 それからしばらくが経過し、俺たちは新しい任地へと到着した。

「ようこそ、フェルモ連隊へ。歓迎するよ」

 俺たちの到着を連隊長自ら出迎えてくれていて、軽くそう挨拶された。

 この連隊長の名前は、フェルモ・モンテリーゾという。到着するまでに読んだ資料によれば、明るい性格をしていて細かいことは気にしないタイプなのだとか。

 少し面長おもながな顔で、髪も若干じゃっかん長く、口調とあいまってちょっと軽薄な感じがする。しかし、その指揮は苛烈かれつで、連邦軍れんぽうぐん随一ずいいちの猛将と呼ばれているらしい。

 俺は挨拶もそこそこに連隊長の部屋へと案内され、そのままソファーに座るように言われた。そして、続けて作戦の説明が行われた。

「知っていると思うけど、今回の作戦は絶対に失敗が許されないのよ。だから、さ。ジェフの大隊にはその先鋒せんぽうを任せたいんだけど、どうかな?」

 会ってまだ間がないのに、いきなりジェフ呼びはちょっとフレンドリーを通り越してなれなれしいと思うが、南部地域の男性はだいたいこんな感じだそうだ。とにかく陽気で明るく、前向きなのが特徴らしい。

「はっ。微力を尽くします」

「固い、固いなぁ、ジェフ。もっとフレンドリーにいこうよ?」

 俺はそれに苦笑くしょうを返し、返答する。

「できるだけ善処しますが、まだあまり連隊長のことを知りませんので、ちょっと難しいですね。できれば、どこか空いた時間で親睦会しんぼくかいでも開きませんか? 酒が入れば、もう少し砕けられると思うのですが」

 俺のその返答に、連隊長はニカッと笑い、快諾かいだくしてくれる。

「いいね、それ。じゃあ、せっかくだからジェフのお仲間も一緒にどう? 一杯おごるから、親睦しんぼくを深めようじゃない」

「了解しました。部下にはそう連絡しておきます」

 連隊長は、まだまだ固いなぁと不満顔をしている。まあ、飲めば変わるかとつぶやいた後に、作戦の続きを語り始める。

「でね。僕も君たちの大隊の資料を読んだんだけどさ。ジェフは時々、最前列に陣取って突撃を始めるんだって?」

「はい。小官の直属小隊で先鋒せんぽうを務めることもあります」

 そうすると、フェルモ連隊長はうんうんとうなずき、次の作戦の位置取りについても説明を加える。

「絶対に失敗できないってことは、僕の部下たちには結構なプレッシャーになると思うのよ。そこでね、全体の士気を上げるという意味でもさ。今回の作戦ではジェフに最先鋒さいせんぽうを務めてもらいたいのよ。いわば、人類の最先鋒さいせんぽうだね。どう? 死神しにがみ殺しにふさわしい役回りだと思わない?」

 俺が先頭に立って突撃することでこの作戦の成功率が上がるのであれば、俺に否やはない。

「小官にふさわしいかどうかは分かりませんが、喜んで引き受けさせていただきます」

 俺のその返答に、目をギラつかせながら感想を語る連隊長。

死神しにがみ殺しを先頭に一斉突撃する僕の連隊……か。いいね。想像しただけで、武者震むしゃぶるいしそうなほど興奮してくるよ」

 そう言って獰猛どうもうに笑ったその顔は、確かに猛将と言われるだけのことはある貫禄かんろくがあった。

 そしてこれが、この後の全ての作戦で、フェルモ連隊の最先鋒さいせんぽうが俺に決まった瞬間となった。

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