第83話 転属

 アーロン連隊長に対応策の検討を上申するように提案してから、二日後。

 俺はその連隊長に呼び出しを受け、幕舎ばくしゃを訪れていた。その席で、俺は転属の辞令を受け取る。

「ジェフリー大隊長。貴官の大隊に転属命令だ。南部方面軍管区、フェルモ連隊への転属を命じる」

「はっ。拝命いたします」

 そこからアーロン連隊長が語ってくれたことによると、俺達のこの転属は連邦の新たな作戦、新帝国の黄昏たそがれ作戦へ参加するようにということらしい。

 軍首脳部は連隊長が上申してくれた通り、魔物の大氾濫だいはんらんと呼ばれるようになった今回の事態を重視、このまま放置していたのでは新帝国の生産能力が激増すると判断したらしい。

 そのため、大急ぎで反攻作戦をまとめ上げたのだとか。

 魔石の大幅な増産が止められない以上、それ以外の資源の取得元などの生産能力を破壊する作戦を採用した模様もようだ。

 そうしないと、大幅に増産されるであろうブリキ野郎に対抗できなくなると、とにかく拙速せっそくで前線に近い攻撃目標から順次破壊していくそうだ。

 前線の兵力にわざと濃淡のうたんを作り、分厚ぶあつく配備した部分から反撃を開始、順に鉱山や工場を破壊していく作戦だ。

 その分、兵力が薄くなる部分では遅滞ちたい戦闘せんとうによる防御に徹し、とにかく時間を稼いでその隙に新帝国の生産能力を削るのだとか。

 その作戦の第一弾として、新帝国の目を担っている監視かんし衛星網えいせいもうを無力化する。

 これをしないとこちらの配置がマクシモに駄々だだれになってしまうため、防御のための兵力を分厚ぶあつく配置されてしまうのを防ぐための一手だ。

 そのため、今回の攻撃ではマクシモに事前準備されないように、各地の前線からさい精鋭せいえいの部隊を抽出、一か所にまとめて少数しょうすう精鋭せいえいで一撃必殺の攻撃とする。

 今回の攻撃目標は、新帝国の南部にある旧ネクルチェンコ共和国のチェルヌィフという都市だそうだ。

 ちなみに、旧帝国はあまり宇宙開発を重視していなかったため、戦争初期には自前の衛星を持っていなかった。

 その穴をカバーするために、当時の宇宙開発大国であったネクルチェンコ共和国を国ごと手に入れていた。

 そのような事情であるため、人工衛星のコントロールセンターのあるチェルヌィフを廃墟はいきょにする作戦になっている。

 新帝国の目を奪うことが目標であるため、一点突破で前線を突き抜け素早すばやく展開、この都市の宇宙基地ごとがれきの山に変えるようにと説明を受けた。目さえ奪えたらそれでいいので、占領することは考えなくてもいいらしい。

「細かい攻撃計画などは、現地のフェルモ連隊長から説明があるだろうから省略する。軍首脳部の判断としては、ここで人類の切り札を切らなくてどうするということのようだ。貴官の部隊の力量に期待している」

「はっ。微力を尽くします」

 続けてアーロン連隊長は、俺にとってうれしい情報も教えてくれる。

「なお、貴官の直属小隊のオルランドⅠ型改だが、整備のためのクルーをセットで南部戦線に転属させる。軍上層部からの期待の大きさが分かる配慮はいりょだな」

「過分な配慮はいりょに感謝いたします」

「それ以外の通常のオルランドⅠ型については、カードキーだけを持っていくように」

 ちなみにカードキーとは、多脚戦車を起動するための認証にんしょうデバイスだ。これには、外部記憶装置としての役割もある。

 これを差し込むと、それぞれの操縦士に最適化された人工知能のデータもインストールされる。

 これがあるから両手両足だけの操作で複雑な動作が可能になり、最悪でもこのカードキーだけ残っていれば、同型機体に乗る限り同じ感覚で操縦できる。

 しかし、俺の直属小隊の機体は特注品だ。

 そのため、全力を出せるようにと、わざわざ機体ごと運んでくれるらしい。それも、整備のための人員つきで。

 俺達、死神しにがみ殺しの部隊にかかる期待の大きさが分かる配慮はいりょだ。

 これは、何が何でもこの作戦を成功させないといけないなと、俺は気合を入れなおした。

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