第82話 禁忌

 やがて本日の戦闘を終え、魔物の駆除くじょもあらかた終えた俺たちは帰投した。

 そうすると、俺とセシルに連隊長からの出頭命令が下った。新帝国の内情にくわしいセシルの意見が聞きたかったのは、連隊長も同じだったのだ。

 それから出頭した俺たちに、アーロン連隊長は早速さっそく本題を告げる。

「セシル嬢に問いたい。新帝国の内部で何が起こっているのか、心当たりはないか?」

 それに対し、セシルは表情を全く変化させずに答える。

「私も最近の新帝国の内情については知りません。しかし、お父様、いえ、マクシモがやりそうなことであれば、推測すいそくはできます。あくまで推測すいそくですが」

「それでかまわないから言ってみてくれ」

 そうすると、セシルは若干じゃっかんの間をあけた。あれは、少し迷っている顔だ。

「……おそらくですが、マクシモは禁忌きんきおかしたのではないでしょうか?」

禁忌きんき?」

 アーロン連隊長は首をかしげる。俺もすぐには分からなかったが、しばらくするとあることに思い至り、背筋が凍り付く。

「まさか……」

 俺が顔を青ざめさせ、思わずうなってしまうと、連隊長は目線で何に気づいたのか述べよと言ってきた。

「広くヒム族全体に知られている禁忌きんきです。特に学者たちの間で根強ねづよく昔から信じられてきた禁忌きんき、と言えば、心当たりがありませんか?」

 しばらく考えるそぶりを見せていた連隊長だが、やがて俺と同じ結論にいたったらしい。顔を青ざめさせ、連隊長も同じようにうなる。

「まさか……。あの禁忌きんきか?」

 セシルは黙ってうなずき、肯定した。

 この大陸では、ずっと昔から広く言い伝えられている禁忌きんきが、一つだけ存在する。


 『動物を魔物に変えてはならぬ』


 この禁忌きんきは、もともとは上位アルクが先祖代々伝えてきたものらしい。それをアルク族の里を訪れていた魔法研究家が聞きつけ、ヒム族の間にも広まったものだと言われている。

 そして、上位アルクは非常に長い寿命を持つことが知られていて、千年を超えて生きる個体も珍しくないと言われている。

 そんな彼らが、先祖代々と言っているのだ。

 これは、それこそ神話の時代に、神々から直接教えられた禁忌きんきに違いないと言われている。

 そのため、どんなに時代が進み、魔法工学が発展しようとも、この分野の研究だけは誰も手を付けなかった。

 しかし、あのマクシモであれば。

 あの、神様気取りの機械であれば、そんな禁忌きんきなどおかまいなしだろう。

 俺はそれにうんざりとしながら、これからのことについて意見を述べる。

「なんにしても、これからの対処法を検討するように上申した方がいいでしょう」

「対処法とは?」

 連隊長は分かっていないようなので、俺は現状の深刻さを説明する。

「現在までのところ、魔石などの資源の産出量の問題で、敵の兵器の増産は限られていました。しかし、新帝国からあふれるほどの魔物が確認されたのです。少なくとも魔石に関しては、ほぼ無尽蔵むじんぞうに入手されてしまうと考えなくてはならないでしょう」

 俺のその指摘に連隊長もうんざりとしているようで、これからもっと上と相談してくると言っていた。

 そして俺たちはその場を辞し、これからは厳しい戦いになりそうだと気を引き締めなおしながら、仲間たちのもとへと戻った。

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