第81話 魔物の大氾濫

 俺たちが02ゼロツーを撃破したことにより味方の士気が上がり、みんなが奮戦ふんせんしてくれた結果、ほんの少しずつではあるが前線をじりじりと押し上げていた。

 この状況をマクシモが放置するはずがない。そう思ってはいるが、現在までのところ、新帝国は不気味ぶきみなほどの沈黙を保っていた。

 そして、その日はいつもと同じように始まった。

 いつもの手順で戦争が始まり、いつものように近接戦闘が開始された。それからしばらく戦い続けていると、俺はある異変に気付く。

「なんだ? 何かがせまってきているのか?」

 前線の後方に砂煙すなけむりのようなものが見える。何かの大群が来ているらしい。しかし、大きさは多脚戦車よりもかなり小さく見える。

 そのようなサイズの兵器をいくら集めようとも、多脚戦車の脅威きょういになりえるとはとても思えない。

 そう考えている間にもそれらはぐんぐんとせまってきていて、やがて拡大表示していたウィンドウにそれらの姿が映し出された。

「なっ!」

 俺は思わずうめき声をあげていた。

 それらは、近年では目にすることも珍しくなった、魔物の大群だったのだ。

 牛、豚、鶏、犬、猫といった、現代の人類社会ではよく見かける動物たちが、全て魔物化した状態でこちらに走ってきている。

 いや、こちらというよりは、魔物の少ないスペースに向けて無秩序むちつじょに走っているようにしか見えない。

 やがてそれらは俺たちの戦っている最前線すらも通り抜け、後方へと我先われさきに走り去っていこうとしていた。

 その時、誰かが外部スピーカーで叫んだ。

「まずい! 後ろには俺の家族がいるんだ!!」

 その一声で混乱を増す味方たち。俺は自分の大隊に指示を出すふりをして、外部スピーカーを最大ボリュームにして、広く味方にうったえかけた。

「落ち着け!! たかが魔物ごとき、煙幕のない後方では、多脚戦車の側面レーザーによるつるべ打ちで一掃できる!!」

 現在では十分な兵力が展開されており、補給上の問題で後方にひかえている部隊も多い。それらの戦力を使えば、魔物の群れは脅威になりえない。

 俺のこの一喝いっかつで、味方の混乱は多少落ち着いてきたようだ。続けて、俺は今の状況の対処法も述べる。

「レーザーの使えないここでは、主砲の左右についている副砲を使え!! 人工知能の自動照準でなまりだまを食らわせれば、魔物ぐらい簡単に吹き飛ばせる! それよりも、ブリキ野郎だけは絶対に後ろに行かせないようにしろ!!」

 そう。魔物の群れだけであれば、いくらでも対処が可能だ。それこそ、パワードスーツを着た歩兵の装備でも十分に対応できる。

 しかし、この混乱を利用されてブリキ野郎を後方に行かせてしまったら、それこそシャレにならない。

 ちなみにこの副砲、レーザーが使用不能な状況でミサイルや砲弾を撃ち落とすために使われる、一種の近接防御火器だ。

 その目的のために、割と広い範囲に砲身の向きが自由に変えられるため、魔物のような小さい目標を撃破するには最適な武装だ。

 この副砲は風魔法によって圧縮空気を作り、それを解放することで弾丸が発射される。そのため、発砲音はシュッという音だけであり、反動も少なめで命中精度が高い。

 フルオートでの連続発射も可能で、その時はシュウゥゥゥンという一連の発砲音に聞こえる。

 あちこちでその発砲音が鳴り響きだし、魔物の駆逐くちくが始まった。

 ようやく混乱を脱した味方に俺は安どのため息をこぼし、この状況の原因について少し考えてみる。

「しかし、これはいったい、どういう状況だ?」

 いくら考えてみても、俺の頭脳では答えを導き出せなかった。

 そこで、帰ったらセシルに相談してみるかと思いながら、俺も魔物の駆除くじょ作業に参加していった。

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