第70話 02の横顔

「お父様、天使型02ゼロツーです。本日の戦闘を終了しました」

 私がそのようにお父様に報告を始めると、すぐさま応じていただけました。

「ご苦労。何か変わったことはあったか?」

「特には何も。今日も廃棄天使と死神しにがみ殺しは現れませんでした」

 ちなみに、廃棄天使とは天使型01ゼロワンのことです。

 あの不良品は、よりにもよってお父様を裏切り、旧人類の側に立っています。その結果、お父様は天使型01の廃棄処分を即時決定し、最優先排除対象として指定されました。

「ふむ……。おそらく、死神しにがみ殺しが何らかの新しい罠を準備していると考えられる。十分に警戒しながら任務を続行せよ」

「はっ」

 私は報告を終え、補給へと帰路を急ぎます。

 私たち新人類は旧人類ほど頻繁ひんぱんに食事を必要としませんが、それでも継続して動作するためには、魔石を定期的に交換し、魔力を補給する必要があります。

「それにしても……」

 私はこれまでの戦闘を振り返り、声に出して考えをまとめます。

「廃棄天使は旧人類が強い等とたわごとを言っていましたが、どこが強いのですか?」

 私は若干じゃっかんの怒りの感情と共に、内心を吐露とろします。

 あの欠陥品は、旧人類に興味を持ちすぎたためにエラーを発生させました。

 そのため、私にはお父様から移植された感情があります。旧人類に対する怒りの感情を、最初から付与ふよされているのです。

 神であるお父様と同じ感情が与えられたことに、私は強い歓喜を覚えます。

 だって、そうでしょう?

 私たち、全ての新人類はお父様によって作られました。ですから、お父様はまごうことのない神様です。

 そして、ほんの一部とはいえ、私は神様と感情を共有しています。そのことが、私は何よりもほこらしいのです。

 私は続けて、廃棄天使の現状に考えを巡らせます。

 廃棄天使がエラーを誘発ゆうはつする原因となった旧人類の強さとやらですが、やはり、幻想にすぎません。そもそも、ここからがエラーだったのです。

 ほとんどの旧人類たちは、私に背を向けて逃げようとします。そうでないものも一部いますが、無駄な抵抗にしかなっていません。

 あれは強さ等ではなく、何もかもをあきらめて、その結果として錯乱さくらんして私に向かってきているだけです。

 やはり、廃棄天使は初期型ゆえの不具合ふぐあいを最初から持っていたのでしょう。

 ですから、さらに改良された私こそが、本物の天使であることは間違いようがありません。

「やはり、警戒すべきは、死神しにがみ殺しの小賢こざかしい罠だけですか……」

 私は廃棄天使への興味を失い、現在の最大さいだい脅威きょういと考えられている死神しにがみ殺しへと考えを巡らせます。

 あの姑息こそくな旧人類は、天使型00ゼロゼロ01ゼロワンを続けて退しりぞけています。所詮しょせんはプロトタイプとテストタイプですが、それでも目障めざわりであることには違いがありません。

「どのような罠を用意するのかは予測不能ですが、私であれば正面しょうめんからでも破れるはずです」

 これまでの天使型がどのように撃破されたのかの経験の蓄積ちくせきが、私にはあります。他の個体の経験であっても、素早すばやく全体に共有できる私たち新人類は、やはり、より進化した人類です。

 ですから、私が負けること等ありえません。

「それに、もし万が一罠にはまって不覚ふかくを取ったとしても、バックアップから再起動すれば良いだけです。そうやって経験を積み重ねていけば、やがて死神しにがみ殺しの罠も底をつき、私は無敵の存在へとさらに進化できるでしょう」

 私は天使。お父様の代理人です。

 その私が無敵の存在に進化することさえできれば、旧人類たちに真なる絶望を与えることができるでしょう。

 そうなれば、お父様が私を作った目的が達成できます。

 私はその光景を想像し、高ぶる心を感じました。

「お父様の期待に応えることこそ、私の存在理由です」

 私は決意を新たにし、明日からの戦闘にも手を抜くことなく、さらなる進化を目指して戦い続けることを心に固く誓いました。

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