第63話 ジェフの秘めた心

「お前に魅力みりょくがない? それはいったい、何の冗談だ?」

 俺はゆっくりと目を開け、セシィの目をまっすぐに見つめる。そして、幼いころからずっと抱き続けてきた思いを、その視線と同じようにまっすぐと思い人にぶつける。

「俺の目には、セシィはこの世で最高のいい女にしか見えていないぞ?」

 俺のそのセリフに、驚いたような表情で顔を上げるセシィ。びっくりしすぎたのか、涙も止まっている。

 そうだ、それでいい。セシィには明るく強気な笑顔こそが一番良く似合にあう。そんなことは、それこそ物心ものごころのつく前からずっと知っていた。

 そんなことを考えながら、俺は思いのたけをできるだけ丁寧ていねいにぶつけ続ける。

「これまでもずっと。これからもずっと……な」

「え?」

 思わずなのだろう、キョトンとした表情になるセシィ。そんな彼女に、俺はずっと秘め続けた心の内をさらけ出す。

「俺の方こそ、セシィには男として見られていないと思っていた」

 そして万感ばんかんの思いを込めて、ずっと言えなかった言葉をつづる。

「俺はずっと昔から、お前が好きだった。ずっとずっと、好きだったさ」

 突然始まった俺の愛の告白に、ぱちくりとまばたきをするセシィ。それにかまわず俺は言葉を続ける。

「でも、俺は臆病おくびょうすぎた。だから、あきらめてしまったんだ。もしお前に告白して、今の心地ここちよい関係が壊れてしまったらと思ってしまうと、どうしても、怖くて言い出せなかったんだ」

 俺はりし日を思い出しながら遠くを見つめ、その時の苦しさを語り聞かせる。

「でもな。それは同時に、いつかはお前を他の男に奪われてしまうことを意味していた。それは覚悟の上だったはずなんだ」

 その時の心の痛みがぶり返し、俺は少し苦しげな表情になりながら続きを語る。

「しかし、それでも、何度も何度も繰り返し繰り返し、覚悟を決めたつもりになっても、俺じゃない誰かとっているセシィの姿を想像しただけで、俺は胸をかきむしりたくなるぐらい悲しくて、苦しくて、くやしくてたまらなかったんだ」

 そして俺は、今の状況になった経緯を語る。

「そんな俺の心の隙間に、セシルがカチリとはまり込んでしまったんだ。何より、まっすぐすぎるセシルの恋心を、俺は応援したくなってしまったんだよ」

 俺はセシルの顔を思い浮かべ、セシィに申し訳なくなりながら、今の心の内を正直しょうじきに伝える。

「そして、セシルの恋心を応援するためには、俺がその思いにこたえてやるしかなかったんだ」

 そして俺はセシィの目をじっと見つめ、つぶやくようにしながら謝罪する。

「すまんな……」

 俺の告白を聞いたセシィはしばらく呆然ぼうぜんとしていたが、やがてゆっくりと目を伏せ、絞り出すようにして声を出した。

「なんだよ、それ……」

 そしてがっくりと床に両手をつき、体を震わせながらつぶやいた。

「あたいかジェフのどちらかが、もう少しだけ勇気を出していたら、とっくにあたいたちは恋人同士だったってワケだ……」

 そのまま床にし、力なく乾いた笑い声をあげる。

「ハッ……ハハッ。ハハハハハ……」

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