第57話 新型

 それからまたしばらくが経過し、セシルのボディが無事に完成した。ボディを含めたセシルの身長は141.7アッシュ(170cm)で、これはセシィと全く同じになっている。

 肌の色こそ顔に合わせたものになっているが、それ以外の体つきもセシィそっくりに見える。これは偶然ではなく、おそらくはセシィのようになりたいと言っていたセシルの希望を反映したのだろう。

 そして、セシルは無事に俺の直属小隊に配属された。中隊の仲間たちは知っているが、他の戦友たちにはセシルの出自を伏せられている。

 天使の顔を見た兵士も多かったが、バレてはいないようだ。顔は良く似ているなと思われている様子なのだが、まさか天使本人が連邦軍に参加しているとは想像もしていない模様で、マクシモが天使を作る際にモデルにした人物だろうと言われている。

 ちなみに、セシルの駆る多脚戦車はグラディエイタースタイルだ。ブリキ野郎の戦闘データがあるため、これが最も扱いやすいのだとか。事実、わずかな訓練で古参兵よりも操縦が上手うまくなっている。

 ボディこそスペックを落としているが、首から上はオリジナルのままのため、情報の処理能力と反応速度が圧倒的なようだ。

 そして、セシルの入隊と時期を前後して、戦場の死神しにがみの機体データから作られた新型の多脚戦車のプロトタイプが開発されていた。

 オルランドという開発コードネームのこの試作機は、戦場の死神しにがみの機体からスペックを落とし、量産性と操作性を両立させたタイプになっている。

 それでも、これまでの量産機よりは高価な機体になっていて、テストパイロットとして俺たち死神しにがみ殺しの部隊が選ばれていた。

 精鋭部隊として名高いことと、データの提供者であるセシルの意見も聞きたいからという開発者からの要望だそうだ。

 今までのアルヴァロⅠ型と比較して、足回りや腕の動きがかなり高速化されており、これからは効率的にブリキ野郎を狩れそうだと隊員たちの評価も上々だ。

 そのため、この少し後に、テストで発覚した細かい問題点を修正した以外はほぼそのままの形で、正式量産型のオルランドⅠ型が開発された。

 その後の兵士たちの反応だが、実は新兵たちからの評判が特に悪かった。

 熟練兵でなければスペックを持て余してしまい、機体性能に振り回されてかえって扱いづらいという評価になってしまっていた。

 そこで、さらにスペックを落とし、扱いやすさ重視で再調整されたアルヴァロⅡ型が新たに開発され、量産と配備が始まっている。

 なお、オルランドⅠ型は熟練兵向けの機体として、その後も量産が続いている。そのため、この機体が扱えるか否かが、精鋭かどうかの一つの判断基準になっている。

 ちなみに、ジェフリー中隊の機体は全機オルランドⅠ型だ。さすがに精鋭部隊だけあって、これを持て余すような腕のものは一人もいなかった。

 なお、俺の直属となったセシルだが、一見して分かるほど俺に首ったけで、恋する乙女のオーラが駄々だだれになっていた。俺もその思いを特に拒否することなく、むしろ応じていたため、周囲からは生暖かく見守られている。

 ただ、俺の気のせいかもしれないが、セシルが配属されてからのセシィの様子がおかしい。妙にとげとげしい態度をとるようになり、不機嫌ふきげんな様子を隠そうともしない。

 周囲はそれも含めて生暖かい目で見ているようだが、俺はどうしたものかと頭を悩ませるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る