第55話 交渉

 その後、きちんとアポイントメントをとって直属の上司であるダリル大隊長のもとを訪れ、セシルの現状について報告し、相談に乗ってもらっていた。

れられたのか?」

 それを聞いたダリル大隊長の第一声がこれだった。

「小官は専門家ではありませんので、正確なことは分かりかねます。ですが、セシルは小官に強い執着しゅうちゃくがあることだけは確かだと思われます」

 俺がそう正直に返答すると、ヒゲの大隊長はあごに手を当てて考えだした。

「ふむ……。確かに、多脚戦車の性能向上の可能性がある情報は欲しい。だが、いくら性能を落としているとはいっても、あの天使にボディを与えて本当に大丈夫なのか?」

 俺はそれに力強くうなずき、太鼓判たいこばんを押す。

「それについては心配に及びません。小官が戦死すると自壊じかいしたくなると言っていますし、小官との会話が何よりも楽しいと本人が言っています。ですから、天使が暴走しないように、小官が直接監視します」

 俺がそう言うと、ダリル大隊長は俺の目をまっすぐと見つめ、重要な確認を始める。

「では、もしセシルが付き合ってくれと言って来たらどうする? お前に拒否できるのか?」

 俺もまっすぐに視線を返し、覚悟を語る。

「拒否するつもりはありません。その方がコントロールしやすくなると判断した場合は、彼女とげて責任をとる覚悟はあります」

 俺のその回答に、ダリル大隊長は少し驚いた表情をする。そして最終確認として、一言だけ追加する。

「本気か?」

 俺はそれにだまってうなずきを返し、本気であることを伝える。

「……分かった。貴官にそこまでの覚悟があるのなら、もうこの件については言うまい。しかし、セシル自身も我が軍にとってはかなり重要な情報源だ。それを前線にだすというのであれば、もう少し何か欲しいな」

 ダリル大隊長のその感想に、俺はそういう意見も出るだろうなと予想していたため、あらかじめ用意していたセリフを述べる。

「それについては、新帝国に勝利した後の人類の発展を見据みすえ、先行投資のリスクという形に落とし込めませんか?」

「どういうことだ?」

 つかみは上々のようだ。俺は用意していた理由を続けて述べる。

「現状では、人工知能と人類が敵対してしまっています。しかし、戦後に人類がさらなる発展をしようとすれば、人工知能技術は欠かせません」

 俺はここで一息入れ、大隊長の様子をうかがう。真剣に聞き入ってもらえているようなので、続けてその意義を畳みかける。

「そして人工知能技術を使う場合、マクシモの影響や後継者がでてくる可能性が否定できません。そこで、セシルです。

 彼女はマクシモによって作られてはいますが、それに逆らって人類に協力しています。彼女が人類に味方してマクシモと戦う選択をしたのであれば、むしろそれを応援して、人類に友好的な人工知能を増やす研究を進めるべきです」

 俺の説明を黙って聞いていたダリル大隊長は、その後目をつむって何かを検討していた。しばらくしてから目を開け、了承の意向を示してくれた。

「分かった。俺の方から上層部に意見を具申ぐしんしておこう」

 こうして、俺はセシルを見守る決意を固め、その恋心を応援することが決定した。この瞬間、ある人物との関係が決定的にこじれることになったのだが、俺がそれに気づくのは、しばらく後のことになる。

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