第53話 新帝国の内情

 それから季節が過ぎ、冬になったころ。

 軍の指揮命令系統の混乱も徐々に落ち着きを取り戻し、徴兵された新兵も、訓練を修了したものから順次配置されるにしたがって、少しずつではあるが戦況は好転のきざしを見せていた。

 しかし、まだ新帝国を押しとどめるところまではいっておらず、旧帝国時代に押し戻した国境線をじりじりと後退させられ続けている。

 俺たち兵士にとってありがたかったのは、休暇のローテーションの間隔が、再び以前のような長さに戻ったことだ。

 前線に今までにない規模の大兵力を展開した結果、これ以上分厚く配置しても遊兵を作りやすくなるという判断と、補給の負担の問題で、休暇が取りやすくなっていた。

 俺はその休暇を利用し、足繫あししげくセシルのもとに通い詰めて雑談を楽しんでいた。そのセシルとの雑談の内容には結構重要な情報も含まれていて、軍の上層部からはむしろ積極的にセシルのもとを訪れろと言われているぐらいだ。

 その情報の中には、新帝国の現在の内情ないじょうも含まれていた。新帝国の地域に暮らしていた一般市民の状況は、悲惨の一言で言い表せられる状態だった。

 ああはなりたくないという一心で新兵たちも奮起していて、それもあって戦況が良くなっているのだから皮肉としか言いようがない。

 神を自称するマクシモは、その宣言通りに人類を家畜として扱っている模様だ。

 野菜工場で栽培された食材を適当にぶち込んで煮込んだだけの薄いスープのみを与え、毎日均一化の魔道具の前に連れて行って魔力を供給させ続ける。

 そんな劣悪な環境のため、体力のないものからバタバタと倒れ続けているらしい。

 しかし、それでも生かされているものはまだマシな方らしく、収容所に押し込める時に、あふれた大勢の市民を虐殺していたらしい。

 最初の演説で、マクシモは家畜になれば俺たちの生命を保証すると言っていたが、ハナから守る気がなかったようだ。

 まあ、家畜としてしか考えていないのだから、それらとの約束などどうでもいいと考えていても不思議はない。

 その上、マクシモはまだまだ家畜の数が多すぎると考えている模様で、数が減っても全く頓着とんちゃくしていない様子だ。それどころか、減りすぎたら連邦から集めてくればいい程度にしか思っていないらしい。

 ただ一つだけこちらに有利に働いているのが、新帝国の各種生産能力の割り当てだった。

 一般市民の生活を無視して資源を集めている以上、今までとは比べ物にならないくらい各種兵器の増産をしていると考えられていたが、これについては杞憂きゆうに終わっている。

 というのも、マクシモは本気で人工知能による国を作ろうとしているらしく、まずは工場や鉱山労働などのためのアンドロイドやロボットを増産しているらしい。

 これら、非戦闘員ともよべる人工知能の量産のために各種資源が使われている関係で、当初こちらが想定していたような、多脚戦車などの兵器だけを大増産はしていない模様だ。

 それでも、旧帝国の時に比べればかなりの数を増産している上に、戦闘用の人工知能自体の性能も上がっているため、連邦は苦戦をいられ続けている。

 しかし、機械の家畜として生き長らえるぐらいならばと、全員が捨て身の奮戦ふんせんを始めた結果、少しずつではあるが戦況が拮抗きっこうし始めだしていた。

 後何かもう一押し、例えば、こちらに有利な技術革新か何かがあれば、戦況を互角にまで押し戻せるのではないかと、みんな考えている。

 そして、そのための情報は、意外なきっかけでセシルからもたらされることになる。

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