第51話 天使の開示情報

 天使の開示した情報により、真っ先に作られたのがブリキ野郎の通信妨害装置だ。ブリキ野郎がどうやって戦闘データを共有しているかの方法が判明したからだ。

 ただ、残念ながら通信内容そのものはかなり強力な暗号化処理がなされており、連邦の計算機では解析不能なレベルらしい。そのため、内容の偽装ぎそうなどの手段はとれなかった。

 それでも、通信していることだけは分かるため、それをピンポイントで妨害する装置が既に開発され、最前線の多脚戦車から順次じゅんじ搭載とうさいされている。

 いずれ対策がとられる可能性があるが、少なくとも現状ではブリキ野郎の学習速度を大幅に低下させることに成功している。ただ、生き残ったブリキ野郎からの学習データまでは妨害できないため、完全には防げていない。

 それでも、際限なく強くなり続けるブリキ野郎の進化速度を大幅に低下させることには成功しているため、俺たち兵士にとっては、かなりありがたい話だ。

 同時に、天使が提供したブリキ野郎の人工知能のプログラムの解析も始まっている。しかし、天使のプログラムよりかなり簡略化かんりゃくかされた量産型とはいっても、人類が理解するにはこれでも複雑すぎて無理な模様で、連邦でブリキ野郎を生産する計画はとん挫していた。

 デッドコピーで運用するにしても、少なくとも敵味方を識別する部分のプログラムは書き換えないと、そのままでは俺たちに牙をむく可能性が高い。

 そのため、人工知能研究は長期の研究課題として扱われるようになっていて、それ以外の部分の応用を進めようということらしい。

 天使が提供したデータの中には、天使のボディに使われている超高性能魔力筋繊維のデータもあったが、あまりにも高コストすぎてこちらの応用も進んでいない。

 新帝国に対して三倍以上の経済力と生産力をほこる連邦であっても、そう簡単には量産ができない模様だ。

 他に天使が提供したデータの中には、神を自称するモノの正式名称も含まれていた。それによると、ヤツに名前と呼べるものは存在しないが、アレを作った研究者たちはマクシモヴィチ・システムと呼んでいたらしい。

 そのため、俺たち兵士の間では、アレはマクシモヴィチとか、もっと短縮してマクシモと呼ばれるようになっていた。

 なお、同時に判明したブリキ野郎の型番だが、ヴァレンチナⅡ型というらしい。それを聞いたセシィの感想は、以下のようなものだ。

「ブリキ野郎って女の子だったのか! これからはブリキのお嬢様って言わないとダメなのか?」

 俺はそれに脱力しながら否定しておいた。

「いや。そもそも人工知能に性別はないから、何と呼んでもかまわないんじゃないか?」

 なぜセシィがこの情報をいち早く知っているのかというと、俺と一緒に天使との雑談に加わっているからだ。

 天使が俺以外の人との会話もしてみたいとお願いしてきたため、ちゃんと上司に許可をとって、俺と最も自然に雑談がはずむからという人選で、セシィにお願いしていた。

 俺たちは暇を見つけてちょくちょくと天使のもとを訪れるようになり、俺はいつの間にか、天使との雑談を楽しむようになっていた。

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