第50話 天使の協力
「私は死のリスクが知りたかったのです」
天使のその告白に、再び絶句する俺たち。俺は再度絞り出すように感想を述べていた。
「そして、お前は死にかけたわけだが、それは学習できたのか……?」
俺がそう言うと、天使はやはりわずかに表情を変化させ、少しだけ
「死の恐怖、という意味では学習できました。しかし、私はさらに人が分からなくなりました。自分が消滅してしまうこの恐怖を乗り越え、自ら死に向かう行動をとる理由がどうしても理解できません」
「それは、もっと人の心の動きを学習しないと理解できないだろうな……」
俺が思わずそう言うと、天使は少し前のめりぎみな
「では、ジェフ。あなたが私に人の心について教えてくれませんか?」
「教えろ、と言われても何をすればいいのか分からないぞ?」
「とりあえず、私と会話をしてもらえたらそれで
その程度の協力であれば俺は別に構わない。しかし、研究者でも何でもない俺がそれをやってもいいものかが判断できない。さて、どうするかと考えていると、再び天使後方のモニターに文章が表示される。
『天使との何気ない会話での反応も、人工知能の貴重な研究サンプルデータになります。我々があなたの上司へ許可をとりますので、協力をお願いします』
俺はそれに小さく
「分かった。休暇のローテーションなどの時間の
「はい。お願いします」
相変わらず表情の変化に乏しい天使ではあるが、そう言った顔は
「ジェフ。
「なんだ? 聞くだけは聞いておくので、言ってみてくれ」
「私の学習を進めるためにも、引き続き死のリスクを知っておきたいのです。ですから、私のバックアップやコピーを破棄し、これ以後のバックアップもとらないようにして欲しいのです」
「それはさすがに、俺の一存では決められないな……」
俺が思わずうなりそうになりながらそう返答すると、天使は
「ええ、分かっています。ですから、私はあなた方に交換条件を提示します」
そう言って一拍の間をあける天使。
「私の知る限りの新帝国の内情や私のボディ、人工知能に関するデータを提供する用意があります」
天使の全面協力による情報の提供。それは俺たち人類にとって、喉から手が出るほど欲しい貴重な情報なのは間違いない。
思わずどよめきが起こった研究室で、このやり取りを黙って聞いていた軍のお偉いさんが、俺に向かって了承の
「分かった。しかし、俺の権限では決められないし、こちらの調整も必要になってくる。ただ、お前の望む方向に進むように、上に掛け合ってみることだけは約束する」
「それで
こうして、思いもかけない形で天使からの全面協力を取り付けること成功した人類は、しばらく後に天使のボディなどの技術転用が始まり、新型の多脚戦車の開発などによって、徐々にではあるが戦況が好転し始めることになる。
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