第49話 人類の強さ

「私は人の強さの理由が知りたいのです」

 天使のその宣言に、俺たちは絶句していた。

「俺たちから見れば、お前の方がはるかに強いんだが……」

 俺が思わずしぼり出すようにして感想を述べると、天使が質問を始めた。

「あなたの名前を聞いてもよろしいですか?」

「親しいものは、俺をジェフと呼んでいるな」

 名前を聞いてきた天使に対し、正式なフルネームを伝えてもいいものか判断できなかったため、俺はとっさに愛称の方で返答していた。

「では、ジェフ。声紋から判断しますと、あなたは私を撃破したはずです。それだけでも、あなた方のほうが強いという証明になります」

 俺はそれに対し、何も考えずに反論してしまっていた。

「いや。あれは大勢の仲間たちと協力し、罠にはめてとどめを刺しただけで、決して俺が強いわけではないぞ?」

 天使がここでごくわずかに表情を変える。俺にはそれが、微笑ほほえんでいるように見えた。

「ええ、そうです。あなた一人では私よりもはるかに弱い。しかし、人の集団、人類という種族全体で見れば、あなた方はとても強く、しぶといのです」

「高く評価してくれていることは素直すなおうれしいんだが、それはどういう意味だ?」

 そうすると、天使は驚きの情報を開示し始めた。

「私の撃破率なのですが、実は予想より相当低いのです」

「そうか? 十分に無双していたように見えたが」

「私とあなた方の兵器とのスペック差からお父様が予想した私の撃破率では、今の倍くらい撃破していないとおかしいのです」

 そして天使は一拍置き、何かを思い出すようにしながら続きを語る。

「お父様は誤差だろうと気にもしていないのですが、誤差とするには半分という数字は低すぎます。私は、これには何か理由があるはずだと考え、あなた方人類の戦いぶりを注意して観察するようになりました」

 天使は少し遠くを見るようにしながら、さらに続きを語る。

「そうすると、あなた方の一部に、無謀な突撃を敢行かんこうする者がいることに気づきました。ある者は誰かをかばうために、ある者は誰かを逃がすために、ほんの一瞬だけでも私を足止めしようとして、復活の効かないたった一つの命を投げ出して、戦いにのぞむ者たちが大勢いたのです」

 そこまで聞いて、俺は天使が何を言いたいのかがやっと分かってきた。確かに人は弱い。しかし、何かを守るために戦う時など、覚悟を決めたものはまれに恐ろしいほどの執念を発揮することがあるのも事実だ。だから、戦場は何が起こるか分からない。

「そうやって、たった一つしかない命を自ら散らした人の死後の顔を確認してみると、やり切った充足感と思われる表情をしていました。これは、私には理解不能な感情ですので、そこから私は人に興味を持ったのです」

 そして、バックアップを拒否する理由を語り始める天使。

「これは、死ぬことのない私たちでは、どうやっても理解できない心の動きだろうと予測を立てました。そこで、私は自らのバックアップを全て破棄し、新たなバックアップも拒否するようになりました」

 天使は続けて、少し前のセリフを繰り返した。

「私は死のリスクが知りたかったのです」

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