第48話 天使の起動実験

 それから無事に部下たちをねぎらう祝勝会も終わった。事情をちゃんと説明して箝口令かんこうれいを敷いたため、誰からも特に不満はでなかった。

 ただ、何に勝ったかが公表できないため、表向きは親睦会しんぼくかいとして開催していた。ちなみに一週間の特別休暇も、表向きは天使に甚大じんだいな被害を受けたため再編成作業中と公表されている。

 そんな中、天使の頭部の起動実験が始まった。直接相対した俺の意見も参考にしたいと研究者に言われたため、俺もその実験に立ち会うことになった。

 ちなみに、天使の頭部にあったストレージに格納されていたプログラムだが、あまりにも複雑すぎて人類には理解不能なレベルだそうだ。どう甘く見積みつもっても年単位での解析が必要になるため、とりあえず起動して天使に直接ちょくせつ尋問じんもんしてみるらしい。

 実験室に入ると、美しい天使の生首が台座に置かれ、その下に多種多様なケーブルが接続されてモニターされている、かなりシュールな光景が広がっていた。

「では、起動実験を開始します」

 研究者の一人がそう宣言し、魔力が通される。

 しばらく変化がなかったが、やがてゆっくりと天使が目を開ける。ほとんど無表情だが、俺には少しがっかりとした表情をしているように見えた。

「私は死にそこなったのですね……」

 天使の第一声がこれだった。俺はそれに強烈な違和感を抱き、思わずつぶやいていた。

「お前たち人工知能は、半不死の存在ではないのか?」

 その直後、俺は思わずしまったという表情をする。ここにはお偉いさんや専門家がたくさんいる。ど素人しろうとしたの俺が勝手に発言していいはずがない。

 そうすると、天使の頭部の後方に置かれたモニターに文字が表示される。

かまわないので、そのまま質問を続けてください』

 天使に見えないように伝えられたであろうそのメッセージを見て、少し首をかしげていると、さらに続けてメッセージが表示される。

『人工知能や新帝国の内情については、ほとんど何も分かっていません。ですから、どんな些細ささいな内容でもかまいませんから、天使が自分から語り掛けるように自然に会話を継続してください』

 俺はそのメッセージに納得し、できるだけ不自然にならないように質問を重ねる。

「お前たちはコピーやバックアップが取れるはずだ。そこから再起動すれば、死ぬことはないんじゃないか?」

 天使は少しだけ悲しそうな顔をしながら、俺の質問に答える。

「他の個体はそうです。しかし、私は、自分の意思でバックアップを拒否しています」

 天使のその意外な回答に、この場にいる全員が驚いた表情をしている。その理由を知るために、俺は質問を続ける。

「それはなぜだ?」

「私は死のリスクが知りたかったのです」

 どうにも意味が分からない。俺は首をかしげながら質問を続ける。

「俺たちからすれば、死なないことはとてつもないメリットに思えるのだが?」

 俺がそう言うと、天使は俺にまっすぐに視線を向け、その心の内を語り始める。

「私は人の強さの理由が知りたいのです」

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