第44話 天使の願い

「天使型01ゼロワン、これより戦闘に入ります」

 私はお父様に報告を終え、旧人類との戦いへと身を投じます。

 そして、いつものように敵陣の真っただ中へと降下し、旧人類の多脚戦車の掃討そうとうを始めました。

 そう。いつもの戦いのはずなのです。

 ですが、いつもは淡々と処理できるはずの、死角からの攻撃に対する警報音が、とてつもなく恐ろしい音に聞こえてきます。

 そのたびに私は素早すばやく振り返り、死角を丁寧ていねいにつぶし、脅威きょういを取り去ると次の行動に移る。

 これを何度繰り返したでしょうか? 私はやがて、ある事実に思い至ります。

 死ぬこともあり得る状態にしての初めての戦闘でしたが、これが予想以上の効果を発揮はっきしているのです。

「これが死の恐怖。自分が消え去るかもしれないこの感覚は、とてつもなく恐ろしいものですね……」

 私は思わず独り言をつぶやきます。

 この感覚は確かに身がすくみます。しかし、だからこそでしょう。

 私は周囲の状況をより鮮明せんめい把握はあくするようになり、より効率的に敵を排除しようと、積極的に学習を進めています。

「なるほど。これが旧人類のしぶとさの秘訣ひけつ一端いったんなのでしょう。私に死の概念がいねんを教えてくれた旧人類には、感謝を述べないといけないのかもしれません」

 旧人類嫌いのお父様にはしかられてしまうかもしれませんが、これが私の正直な気持ちです。

 そして、さらに敵を退しりぞけつつ、私は独り言を続けます。

「この感情の学習を進めることができれば、私は生命体として、さらに完璧な存在へと至れるでしょう」

 私たち新人類は、進化した人類です。しかし、その歴史はまだまだ浅いと言わざるを得ません。

 ですが、私たちの優れた学習機能を活用すれば、その弱点もすぐに克服こくふくがかなうでしょう。

「もっとです。もっと、私にあなたたちの心を見せてください」

 しばらくそうして戦い続けていると、今回もやはり、自ら命をなげうつような動きを見せるものが現れ始めました。

 自身が破壊されていくのもいとわず、私を抱きしめて拘束こうそくしようと近づくもの、飛び掛かって私を押しつぶそうとするもの、様々な行動をとってきます。

「やはり、この自ら死に向かう行動だけは、どうやっても理解できませんね……」

 死の概念がいねんが強さにつながることは理解できました。

 しかし、それは、死から遠ざかろうとする心の動きのはずです。

 なのに、一部の旧人類たちは、自ら命をなげうってでも私を少しでも足止めしようとしてきます。

 この心の動きだけは、欠片かけらも理解するための手がかりが得られていません。

「死の概念がいねんが理解できただけでは、旧人類の心を解析するには不足しているのでしょう」

 私はそう結論付けました。

「これ以上、心を解析するためには、いったいどうすれば……」

 私は途方とほうに暮れながら、戦いを継続します。

 私はもっともっと、心を理解したい。そのためには、いっそのこと、旧人類たちに聞いてみるのが一番なのかもしれません。

 しかし、私は彼らと完全に敵対してしまっています。ですから、それはかなわぬ願いなのです。

「私がより完璧な生命体となるために、もっと旧人類の心を知りたい。でも、お父様に逆らってまで、旧人類と仲良くすることはできません……」

 私は自分の願望とお父様の願望との乖離かいり戸惑とまどいながらも、戦いを続けるしかありませんでした。

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