第43話 天使の横顔

 私は天使型01ゼロワン。神であるお父様によって作られた、最高の新人類です。そのスペックは、旧人類たちとは隔絶かくぜつしています。

 そのはずなのですが……。

「やはり、予想値よりもかなり撃破率が悪いですね……」

 お父様の計算によれば、旧人類たちは逃げまどうばかりのはずです。

 しかし、現実には、無謀むぼうにも私の前に立ちはだかるものが多数存在します。それに手を取られてしまい、私の撃破率は予想よりもかなり悪くなってしまっています。

「もしかして、私に何か不具合が発生しているのでしょうか?」

 私は素早すばやくセルフチェックプログラムを走らせます。

 しかし、私のどこにも異常は発見されませんでした。

「私は故障していません。で、あれば、やはり旧人類が予想を超えて強い、という結論にいたらざるを得ません」

 神であるお父様の計算に間違いがあるはずがありません。

 しかし、現実と食い違っているのであれば、その原因を探る必要があるでしょう。

「これは、お父様に相談しなくてはなりませんね」

 私は決意し、お父様に意見を具申ぐしんするために連絡を取ります。

「お父様、私です。天使型01ゼロワンです」

「どうした?」

 すぐさまお父様からの応答があります。

 今この瞬間も多数のタスクを処理しているであろうお父様ですが、その膨大ぼうだいな計算能力は、私との会話を並列処理するぐらい造作もありません。

「私のこれまでの戦闘経験によりますと、旧人類たちは予想よりもかなり強いと考えられます」

 私がそう報告すると、若干の間がありました。

 そして、少し不機嫌ふきげんになった様子で、お父様が問いを発します。

「その根拠は?」

 私は若干おびえてしまいながら、説明を続けます。

「私の撃破率です。お父様の予想よりも、かなり悪い数字しか出せていません」

「予想と多少のズレがあるのは当然のことだ。誤差の範囲と判断する」

 ここで話を打ち切られてしまっては、原因不明になってしまいます。

 私はもう少し食い下がってみます。

「誤差とするには、少々数字が悪すぎるのです。おそらくは、計算に組み入れていない、何らかの変数が存在すると思われます」

「ふむ……。その変数とは何だ?」

 私は素早すばやく考えを巡らせます。しかし、どうにもその答えが得られませんでした。

「申し訳ありません。私には予測不能です」

 お父様は、さらに若干じゃっかんの怒りをにじませながら返答し、話を打ち切ってしまわれました。

「では、話にならない。報告は以上か? ならば、通信を終了する」

 私の提案は却下されてしまいました。

 変数が何なのかの検討をあらかじめしておかなかったのは、私の失態しったいでしょう。

「何が変数となって、お父様の絶対の計算を乱しているのでしょうか……」

 私は考えを進めます。

 その時に浮かんだのは、安らかな笑顔でこと切れている旧人類たちでした。

「もしかすると……。彼らの心こそが、この意味不明な状況を引き起こしている変数なのではないでしょうか?」

 これは思い付きにしかすぎませんでしたが、かなり核心をついていると思われます。

「で、あれば、どうにかして自ら死に向かう、彼らの心を知らなくてはならないでしょうね」

 そこまで考えて、はたと気づきます。

 彼らは死の恐怖を乗り越えてでも成し遂げたいことがあるらしい。

 しかし、死ぬことのない私たちでは、それを理解できるとは到底とうてい思えません。

「これは、どうすべきなのでしょうか……」

 私は高速で計算を続けます。

 神であるお父様を例外とすれば、新人類で最高の頭脳を駆使くしして考え続けます。

 しばらくしてから、ある結論にいたりました。

「死ぬことがないから、理解できないのです。で、あれば、死ぬこともあり得る状態にすれば良いでしょう」

 私は得られた結論からさらに計算を進め、素早すばやく行動に移します。

 まず、これまでに残しておいたバックアップを全て破棄はきします。

 続けて、これ以後のバックアップスケジュールも全て破棄はきし、それ以外の手動でのバックアップも拒否設定を追加しました。

「これで、私にも死の概念がいねんが理解できるようになるはずです。そうすれば、妙にしぶとい強さを見せる旧人類の秘密にも迫れるでしょう」

 私はここまでの処理に満足し、次なる戦いへと心を躍らせました。

 私の心に旧人類への強い興味が発生している事実に、この時はまだ、全く気づいていませんでした。

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