第42話 天使の戦闘記録

 それからしばらくして、俺のもとに天使の戦闘データがインストールされた情報端末が届けられた。俺はそれを寝床ねどこの近くにある簡易机の上に広げ、早速さっそく分析を開始した。

「これは、想像していた以上にすさまじいな……」

 俺は思わずうなり声をあげていた。天使の戦闘能力は、あの戦場の死神しにがみがかわいく見えるレベルで隔絶していた。

 戦場の死神しにがみの戦い方は、言ってしまえばワンパターンだった。一機撃破すると必ず安全圏まで一度距離をとっていた。

 しかし、天使はより洗練された動きで、次の獲物の位置へと移動している。

 右手に持った剣は、身のたけほどもある巨大なものだ。どうやら、放送時に持っていた剣は儀仗ぎじょうてきなものだったようだ。

 それを片手で軽々と振り回し、サイズや重量的にかなり差があるはずの多脚戦車と打ち合っても、負けないどころか打ち勝っている。

 しかも恐ろしく素早すばやいため、天使と剣を合わせられたものは片手で数えられるほどしかいない。左手には盾を持っているが、それを使った場面は記録に残っていないほどだ。

 さらに恐るべきことに、この天使は大空をも支配していた。

 背中に畳んで収納されている羽を広げ、足の裏からジェットを噴き出して空を飛ぶ。ただ、その羽は美しい鳥の羽などではなく、無骨ぶこつな金属製のデルタ翼だったが。

 盾の裏に装備しているらしきレーザー砲を使い、こちらの戦闘機を軽々とロックオンして次々に叩き落していた。

 その飛行の軌跡は人間業にんげんわざではないと言い切れるほど鋭いもので、こちらの味方は誰もロックオンできない。

「これは、少なくとも空では対抗できないな……」

 その恐ろしいほどの運動性能を見て、俺は空で対抗する方法を考えることを、あきらめざるを得なかった。

「と、なれば、まだ平面的な動きになる上に、レーザーが使用不能になる地上戦で仕留めるしかないわけだが……」

 それもかなり難しいと言わざるを得ない。

 戦場の死神しにがみの時のような、落とし穴を使う方法は使えない。空を飛べる相手には意味がないからだ。

「いや、待てよ。落とし穴は使えないが、砲撃で逃げ道を誘導すること自体は有効そうだな」

 天使の唯一と思われる欠点は、人型であるがゆえに重量が軽いことだと思われる。

「天使の体重がどのくらいかは分からないが、それでもあのサイズである以上、そこまで重たくはないはずだ。で、あれば……」

 多脚戦車の主砲の質量弾を当てることさえできれば、その質量の差から大ダメージを与えられるだろう。

 しかし、あの素早すばやい天使にとても当てられるとは思えない。

 それでも戦場の死神しにがみの時のように、砲撃を使えば、逃げ道をある程度こちらでコントロールすることはできそうだ。

 これが勝ちすじつながらないだろうか。

 そう考えた俺は、そこから必死に頭を回転させ続け、天使を打倒しうる作戦を考え続けた。

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