第41話 天使を止めるもの

 対新帝国戦線が厳しさを増していく最中さなか、俺はアーロン連隊長に呼び出しを受け、高級士官用の幕舎へと向かった。

 中に入ると、余計な前置きを述べる余裕もないのか、アーロン連隊長がすぐに用件を述べ始めた。

単刀直入たんとうちょくにゅうに聞こう。戦場の死神しにがみの対策をその場で考えた貴官の意見を聞きたい。天使を止める作戦に心当たりはないか?」

 俺も率直な意見を述べる。

「さすがに即答はいたしかねます。小官はまだ天使の戦いぶりを直接見たことがありませんので」

 アーロン連隊長はどこか疲れたような長い溜息ためいきを吐き出し、俺の意見に同意する。

「それもそうだな……」

 そこで、俺はそれの対応策を提示する。

「ですので、天使の戦闘記録などの資料を一式見せてはいただけませんでしょうか? それを見て、天使にできること、できないことの分析を行ってから返答したいと思います」

 俺とて天使を止めたい。今はまだ南部戦線にしか投入されていないが、そのすさまじい戦いぶりの噂はすでに俺達のもとにもとどろいている。その牙がいつこちらに向けられるのか分かったものではない。

 その時、一応でも対策がとられているかどうかで、俺の部下たちが生き残れるかどうかの確率も変動するのだから。

「よかろう。許可する。どのくらいで分析が完了する?」

「分析を完了し、天使を止めるための作戦案をまとめるのであれば、一週間欲しいところですが、我が軍の状況がそれを許さないでしょう。ですので、死ぬ気になって三日でまとめて見せます」

 我ながら無茶を言っている自覚はある。一週間(六日)かかるものを半分でやって見せると言っているのだから。

 しかし、悠長ゆうちょうに作戦案をり上げている間に天使がこちらに来ない保証はどこにもない。俺の仲間たちを守るためにも、やれるかどうかではなく、やるかどうかで返答していた。

 アーロン連隊長は、目に光が戻った様子で確認をとる。

「いいのか? その様子だと、かなりの負担になるのではないか?」

「それでもやるしかないでしょう。なにせ、自分たちの命がかかっていますから」

 俺は目で訴えかける。絶対にまとめて見せると。

 それを連隊長はくんでくれたようで、俺に特別任務を与えてくれる。

「では、ジェフリー中隊長。貴官に作戦立案の任務を与える。ただ、この状況で一個中隊の戦力は無駄にできん。よって、貴官の中隊は誰か代理を立てて指揮権を預けるように」

「はっ!」

 俺は敬礼をして命令を受諾じゅだくした。

 その足ですぐに中隊の仲間たちのもとへ取って返し、一番付き合いの長いセシィに指揮権を預けようとした。

「そりゃ無理だぜ。そういう面倒めんどうなことは、子供の頃からずっとジェフに頼りっぱなしだったからな。いまさらジェフの代わりをしろって言われてもな……」

 そう言って固辞されてしまった。そこで次に付き合いの長いウォルターに頼んでみると、渋々ながら了承してくれた。

「まあ、俺がやるしかないんだろうな」

 そして、俺に小さく耳打ちする。

「俺まで断ってしまうと、ニールに頼まざるを得なくなるだろ? 俺もそれはちょっと怖いからな」

 こうして俺は後事を託し、睡眠時間を削って必死に頭を回転させることになった。

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