第38話 機械仕掛けの天使

「もはや時代遅れとなった旧人類たちよ。せいぜいあらがってみせよ」

 そう宣言した人類の敵対者は、俺たちの扱いについてもご丁寧ていねいに説明してくれる。

「なお、我の支配下に置かれた旧人類は、我らの食事となる魔力を供給するための家畜としてその生命が保証される。よって、安心して我の支配下に入れ」

「それのどこが安心できるってんだよ!」

 セシィが激高げっこうしている。無理もない。魔石に魔力を込めるためだけに生かしておいてやると言われて、安心できる要素がどこにあるというのか。

「しかし、無駄にプライドだけは高い諸君らのことは理解している。よって、そのプライドごと諸君らの心をへし折る存在も、我は用意した」

 いったいどんな新兵器が登場するのかと身構みがまえていると、とても意外なモノが紹介され始めた。

「紹介しよう。彼女こそが我の代理人。すなわち天の御使みつかい、天使だ」

 その瞬間、これまで黒一色だった画面が切り替わり、この世のものとは思えないほど美しい女性が映し出された。

 金髪に青い目で、きめの細かい白い肌。その髪は後ろでアップにまとめられている。

 しばらくするとカメラが引いていき、全身像を映し出す。それがご丁寧ていねいにも一回転し、全身くまなく表示される。

 それは青を基調とした服にハーフプレートをまとい、剣と盾を装備した女性騎士の姿だった。スカートになっている下半身部分には金属板による補強が見えるが、これらの鎧部分はおそらくただの飾りだろう。

「これは、見た目だけなら確かに天使だな」

 ウォルターはそう評していた。しかし俺には、どうしても精巧なフィギュアにしか見えなかった。

 なぜなら、その顔はずっと無表情を維持しており、何事にも興味を持っていないといった様子で、微動だにせずにたたずんでいたからだ。

「この姿は我からの慈悲である。

 これからこの天使によって、諸君らには絶望が与えられるだろう。その希望きぼうついえるとき、せめて美しい天の御使みつかいの姿を目に焼き付けよ」

「そんな慈悲なんざいらねぇんだよ!」

 セシィが叫んだ。しかし、偽物の神様はそんな俺たちに一切構うことなく続きを語り、この長い演説を締めくくった。

「では諸君、戦争を始めよう。諸君らの大好きな戦争を」

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