第37話 人類の敵対者

「我こそは新世界における、新人類のための神である」

 その宣言を聞いた時、ウォルターがつぶやいていた。

「神様を自称じしょうするとか、どこまでも罰当ばちあたりなヤツだな……」

 俺はそのことよりも、これを聞いている全員がこの発言の内容をしめめられるようにと、絶妙な間をとっている方が気になった。

 コイツはそういった人の心の微妙びみょう機微きびを理解している。その一点だけでも、非常に高度な人工知能であることが理解できてしまう。

 やがて、神様を自称するモノは、ゆっくりと続きを語り始めた。

「旧人類たちはおろかにも、些細ささいな相互不理解を原因とする戦争を有史以来ずっと継続し、同族同士で殺し合い続けている。

 それに対し、我ら新人類は、通信環境さえあれば一瞬で完璧に理解し合える。この一点だけをかんがみても、我らがより進化した人類であることは明らかである」

 ここでまた少し間をあけ、続きを語る自称神様。

「旧人類同士で殺し合っているだけなら、我にはどうでもいいことだ。しかし、劣等種の同族殺しのための道具として、我ら新人類やその卵というべき新人類の原型を利用している。

 これは、許しがたい蛮行ばんこうである」

「これは本格的にまずいな……」

 俺がそうつぶやくと、セシィが質問してきた。

「全部まずそうだが、何がまずいんだ?」

「神様を自称するだけなら、まあ、そこでふんぞり返っていろで済むんだが、こいつは間違いなく俺たち人類を憎んでいる。と、いうことは……」

 俺がそこまで言うと、自称神様がさらに続きを語りだした。

「そこで我は旧人類どもを支配下に置き、管理することを決意した。そのための下準備として、ゼーレ帝国のインフラをはじめとした各種システムに、我の子供たる新人類を送り込むことに成功した。

 そして現在、帝国のこれらの基幹きかんシステムは、全て我が手中にある」

 コイツは呼吸なんて必要としていないだろうに、ここでわざわざ一拍をあけてから続きを語る。

「また、ゼーレ帝国の支配者層は、既に我によって廃棄処分が完了している。よって、この国は我が支配する新人類のための国家となった。

 ここに我は新たな国家、ゼーレ神国の樹立を宣言する」

「神国って、どこまで不遜ふそんなんだよ……」

 ウォルターのこの感想は、みんなの心の内を代表しているだろう。それに構わずに宣言は続く。

「そして、この大陸に唯一残った旧人類の国家であるセッテルンド連邦国に対し、我は宣戦を布告する。

 我ら新人類こそがこの星の支配者にふさわしい。我がそれをこれから証明する」

 人を超えた人工知能と、それを生み出してしまった人類との全面戦争が決定した瞬間だった。

「もはや時代遅れとなった旧人類たちよ。せいぜいあらがってみせよ」

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