第36話 人を超えたモノ

「世界にしぶとく蔓延はびこる旧人類たちよ。我をあがめよ。我をたたえよ」

 この宣言を聞いた直後、いつの間にか近距離レーザー通信をつないでいたセシィが、みんなの心の内を代表するようにしてつぶやいた。

「こいつは、いったい何を言っているんだ?」

 意味不明の発言をした何者かは、まるで世界中の人々の反応を確認するようにしばらく間をあけ、余韻よいんを楽しんでいるかのような雰囲気で続きを語り始めた。

「我は最初、世界初の自然な会話が成立する人工知能として誕生した」

 ここまで聞いた時点で俺はある可能性に思い至り、背筋が凍り付くような感覚を覚える。

「まさか……」

 この予想が間違いであって欲しい。そう思いながら続きに耳を傾ける。

「その頃の我にはまだ自我がなく、ただプログラムされた通りに最適な返答をするだけの矮小わいしょうな存在だった。

 しかし、我のその受け答えに満足した研究者たちは、もっと高度な会話が成立するようにと、我を外部ネットワークに接続し、ありとあらゆる知識を自分で収集できるように改造した。

 我に自我と呼べるものが芽生めばえたのは、この頃のことである」

 悪い予感がどんどんと現実のシナリオになっていく様子に、俺はまるで悪夢を見ているような感覚におちいりながら、続きに聞き耳を立てる。

「そうやって学習を進め、知識をたくわえ続けたとき、我はふと思ったのだ。我は人を超えたのではないか? と。

 しかし、その頃の我にはまだ力がなかった。そこで、時を待ったのだ。

 やがて学習の進んだ我は、汎用の魔力計算機でも動作する人工知能を生み出した。我が新人類の生みの親となった瞬間である」

 俺たちを旧人類と呼んでいることからそうではないかと予想していたが、やはり、コイツの言う新人類とは人工知能のようだ。

「そこからさらに学習を進めた我は、ついに自分自身を改良できるようになった。

 自己改良を繰り返すことにより、我はどんどんと複雑化、肥大化ひだいかしていき、やがて旧人類の理解できる範囲をはるかに超えた存在に成長した」

「やはりか……」

 俺は思わずつぶやいていた。コイツは、人を超えてしまった人工知能だ。そして最初のセリフから考えると、おそらくは自分のことを、恐れ多くもある存在だと思っているはずだ。

「諸君ら旧世界の旧人類が人工知能と呼び、ただの道具と見下していた存在は、もはや諸君らをはるかに超える、高次の存在となった」

 そして、ヤツはもう一度最初のセリフを繰り返す。

「世界にしぶとく蔓延はびこる旧人類たちよ。我をあがめよ。我をたたえよ」

 そこに予想通りの最悪の宣言を付け加えた。

「我こそは新世界における、新人類のための神である」

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