第39話 新帝国の逆襲

 神様を自称するモノは自分の国をゼーレ神国と名乗っていたが、そんなふざけた名前を断固として認めるわけにはいかない。そのため、人類はその国のことを、単に新帝国と呼んでいた。

 そして、その新帝国による大規模な逆襲が始まっていた。

「チクショウ! ブリキ野郎はこれ以上作れないんじゃなかったのかよ!!」

 それから急激に増えたブリキ野郎の軍団に、思わずといった感じでセシィが愚痴ぐちをこぼす。その発言にウォルターも同意する。

「不足していたはずの魔石は、いったいどこから調達しているんだよ……」

 俺はブリキ野郎の攻撃をさばきながら、口だけでその答えを述べる。

「それは、民生用に使っていた分の資源を回しているんだろうな」

 俺と同じような状況のニールが質問する。

「どういうことだ?」

「魔石などの各種資源が不足していたのは、あくまでも通常の市民生活を考えた場合だ。しかし、ヤツは俺たちを家畜としてしか見ていない。だから市民生活を無視して、民生用に使われていた魔石などをブリキ野郎の生産に回しているんだろうさ」

 俺のその発言に対し、正義感の強いニールが歯ぎしりしながらくやしがる。

「クソッ! 新帝国の地域に暮らしている一般市民の犠牲の結果がこれってことか!!」

 ブリキ野郎の数があまりにも増えすぎていたため、俺たちも撃破数を競い合うような真似はできなくなっていた。小隊単位で固まり、確実に一体ずつ削るようにするしかなくなっていたのだ。

 そんな中、ウォルターも愚痴ぐちをこぼす。

「数が増えただけならまだやりようはあるんだが、こうも急に手ごわくなっちゃあな……」

 新帝国になってからのブリキ野郎は、今まで三味線しゃみせんを弾いていたのかと言いたくなるぐらい、急激に手ごわくなってもいた。

 ヤツは人工知能たちの神様を名乗るだけはあるらしい。それを進化させるなど容易よういなことだと、雄弁に物語っていた。

 俺はウォルターのその発言に同意しつつも、さらに悪い状況を確認する。

「それもあるが、俺たちの軍の指揮系統が混乱しているのが痛いな……」

 あの長い演説をれ流していた放送は、俺たちが見ていた軍用のオープンチャンネルに限ったものではなかったのだ。

 世界中のテレビ局もハッキングを受けており、全世界同時中継されていた。

 それはすなわち、外部ネットワークに接続している社会インフラは、ヤツがその気になりさえすれば、新帝国のようにいつでも乗っ取りが可能であることを示している。

 自称神様は余裕を見せているのか、今のところそれらは乗っ取られていないが、それが可能である状況を放置するわけにもいかず、対応が始まっていた。

 つまり、基幹系システムを全て外部ネットワークから物理的に切り離し、ストレージをいったん初期化してからシステムを再インストールする作業を行っている。しかし、そんな手間のかかる作業が一気にできるはずもなく、危険度の高いものから優先順位を決めて順次対応している段階だ。

 そのため、軍用の回線も使用制限がかかっており、指揮命令系統に深刻な悪影響が出ていた。

「これで俺たちの北部戦線はかなりマシな方だってんだから、嫌になるよな……」

 ウォルターが愚痴ぐちを重ねる。

 そう。俺たちはかなり幸運だった。

 天使が投入されている南部戦線では、もっと悲惨ひさんな地獄のような光景が広がっているらしいのだから。

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