第33話 近すぎる二人

 俺たちは前線に設営されたテントで、中隊でまとまって朝食をとっていた。

 軍の慣例だと小隊はまとまって食事をとるが、それ以上の単位で集まるかどうかは特に決まっていない。

 しかし、俺の直属の小隊のメンバーと一緒に食事をとりたいという仲間がだんだんと増えていき、いつの間にか、俺の中隊では固まって食事をとるのが当たり前になっていた。

 その席の雑談として、エルトンが俺の恋愛事情についての話題を始めた。

「中隊長とセシィが付き合っていないのは分かっていますが、中隊長は今まで他の女性とも付き合ったことがないって話、本当ですか?」

 俺はそれにうなずきを返し、肯定する。

「ああ。残念ながら、こんなえない男がいいと言ってくれる女性とは、まだ出会ったことがないな」

「それ、ものすごく意外なんですよ」

「そうなのか?」

 俺がそう聞き返すと、エルトンは持論を語ってくれた。

「ええ。普通に考えたら、中隊長はもっとモテると思いますよ? なあ?」

 そう言って、女性関係のスペシャリスト、ブライアンに話を振る。

「そうですよ。私がもし、中隊長のその頼れる男のオーラのスキルを身に着けたら、今の倍は女性を口説けますよ?」

 俺はその場面を想像してしまい、思わず本音をこぼしてしまう。

「それは、例えが悪すぎないか?」

「あ、中隊長。それヒドイですよ?」

 ふー、やれやれと言った感じで、肩をすくめて首を振るブライアン。イケメンはそんな姿も様になっているが、なんだかそれが滑稽こっけいに見えて、中隊の仲間たちから軽い笑いが起こる。

 その笑いが収まった頃に、エルトンが俺のモテない理由について教えてくれる。

「中隊長がモテないのは、中隊長に魅力がないってわけではなくて、何と言いますか、その、セシィがいつも隣にいるからだと思いますよ?」

「でも、俺たちは付き合っているわけじゃないぞ?」

 俺がいつもの回答をすると、もう一歩踏み込んだ意見が聞けた。

「それは有名ですから分かっています。でも、お二人はとても信頼し合っていますよね?」

「そうだな。なにせ、物心ものごころがつくかつかないかぐらいの頃からの付き合いだからな」

「その、お互いの背中を預けあっている雰囲気が、ええと、何と言えばいいのか……」

 そう言って、エルトンは再びブライアンを見る。そうすると、その話を引き継いだブライアンが教えてくれる。

「要するに、他人がお二人の間に割って入っている姿を想像できないんですよ」

「そんなものか?」

 俺が首をかしげていると、セシィも首をかしげている。そんな様子を見たウォルターが、彼なりの認識を教えてくれる。

「まあ、この二人はそっとしておいてやってくれ。距離感が近すぎて、かえってお互いのことが見えなくなっているだけだからな。そのうち嫌でも理解するようになるさ」

 そう言って、ウィンクしながら親指を立てるウォルター。

 俺は意味が分からなかったので、思わずセシィの方を見る。セシィも同じように感じているようで、何を言っているんだって顔をしている。

 しかし、しばらく後に、俺たちはこの時のウォルターの言葉を嫌というほど思い知らされることになる。

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