第32話 ブライアンの横顔

 私の名前はブライアン・ギルソープ。数多あまたの女性をでる、愛の狩人かりゅうどです。

 今は酒保で酒を買おうと思いまして、ウィスキーの瓶をながめています。

 ちなみに酒保というのは、軍隊の駐屯地などで酒や日用品なんかを安価に販売している売店のことです。

 そうしていると、見事な赤毛の女性店員が通り過ぎていく映像が私の目に映りました。

「ねぇ、お嬢さん。その髪色、素敵すてきですね。そのキュートなヘアピンとあいまって、とてもお綺麗きれいですよ」

 私が迷わず口説き始めますと、お嬢さんはまんざらでもなさそうな雰囲気で応じてくれます。

「まあ、お客さん。お上手ですね」

「その、ニッコリ笑った顔もとてもキュートですね。どうです? 今度一緒にお茶でも?」

「そう言ってもらえるのはうれしいのですが、私、そこまで軽い女ではありませんよ?」

 押してダメなら引いてみろ、ですね。

 私は少し戦術を変更してみます。

「これはすいません。あまりに美しいお方だったので、私もつい気がせいてしまったようです。でしたら、少しだけここで雑談してみませんか? 他にお客さんもいないようですし、ちょっとの間だけの暇つぶしにどうです?」

「それでしたら、まぁ」

 よし。突破口はできました。ここからが愛の狩人かりゅうどの見せ場ですね。

「それは光栄です。私の名前はブライアン・ギルソープといいます。今売り出し中の精鋭部隊、死神しにがみ殺しの部隊の一員なんですよ?」

 ここ最近、鉄板のネタとなっている死神しにがみ殺しの部隊に関する話を振ってみます。

「まあ! 最近、兵隊さんたちの間で話題になっている、あの死神しにがみ殺しの部隊ですか?」

 ここまでくれば、ほぼ間違いないですね。

 私はこれまでにつちかった話術を駆使し、無事に今度の休暇にデートをする約束を取り付けることに成功しました。

 その後、部屋に帰ってきた私はナンパの成功を祝うために、買ってきたウィスキーの瓶をあけて、そのまま口をつけて一口だけあおることにします。

「ふぅ。やっぱり、美しい女性との約束後の一杯は最高ですね。鉄板のネタを提供してくれた、中隊長に感謝を」

 私はそう宣言して、また一口あおります。

「しかし……。あの中隊長は、あれだけ自分をしたってくれている女性がすぐそばにいるというのに、手を出すどころか口説いてもいないとは、ちょっと信じられませんね」

 中隊長の様子を思い出し、思わず口に出して確認してしまいます。

 中隊長とセシィはいつも一緒にいます。そして、一目瞭然いちもくりょうぜんなほど、セシィは中隊長に首ったけです。

 いや、そんななまやさしい表現では、とても収まり切りませんね。

 あれは、中隊長にどっぷりと依存してしまっています。

「まあ、考え方によっては、あれはあれで、私にとって利用価値がありますね」

 本人たちは無頓着むとんちゃくですが、セシィのガードは鉄壁なのです。

 これからは、あの中隊長に言い寄りたいと考える女性も増えるでしょう。しかし、セシィのガードを突破するのには、時間がかかるはずです。

 そこを私がかっさらってしまえば、誰も不幸になりません。

「ふふっ。完璧な作戦です。これからは、もっとデートに忙しくなりそうですね」

 私は、これから出会うと思われる様々な美女たちとの逢瀬おうせに思いをはせまして、また一口、ウィスキーをあおりました。

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