第26話 死神の猛威

 久方ひさかたぶりの休暇を過ごし、英気を養った俺たちはまた地獄の最前線へと舞い戻ってきていた。

 初手の砲撃戦など、いつもの手順で始まった戦争だったが、突撃命令が下った直後、それは動き出していた。

 何かが恐ろしく素早すばやい動きで近づいたと思った瞬間、味方の一台の多脚戦車が大破した。それが敵の攻撃だと判断できた頃には、そいつはもう後ろに下がっている。

 そんなヒット・アンド・アウェイの攻撃を愚直ぐちょくに繰り返し、戦場のみんながその正体に気づいたときには、もうこちらは四台がられていた。

「戦場の死神しにがみだ! 死神しにがみがでたぞ!!」

 誰かが多脚戦車の外部スピーカーをオンにして叫んだ。

「速い!」

 俺は思わずそう叫んでいた。

 次々にられていく味方を見て、俺は今までにない恐怖を感じる。

 まずい、あれはまずい。落ち着け、考えろ。考えるんだ。どうすればいい? どうすれば、あれを止められる?

 そうやってしばらく必死で頭を高速回転させ、ある方法を思いつく。俺はオープンチャンネルの回線でヒゲの大隊長に緊急連絡を入れる。

「ダリル大隊長! 突然の通信、失礼します! あれを止める作戦を思いついたので、近距離レーザー通信ができる距離まで後退する許可をください!!」

 混乱する味方の惨状さんじょうに頭を抱えていたのは大隊長も同じだったらしく、俺のその無礼な通信をとがめられはしなかった。

「それは本当か? あれを確実に止められるのか?」

「確実な方法があるのなら、南部戦線でもうやっています! 不確実でも可能性があるのであれば、やってみる価値はあると思います!」

 ヒゲの大隊長の判断は早かった。

「そうだな。後退を許可する。すぐにその作戦内容を説明せよ」

「はっ!」

 俺は手早く小隊の仲間に近距離レーザー通信を入れ、指示を出す。

「今のやり取りを聞いていたな? すぐに大隊長のところまで下がるので、俺の援護をしてくれ!」

「「「おう!!」」」

 仲間たちの快諾かいだくの後、俺を中心とした円陣が素早すばやく組まれる。そしてそのまま下がり始めると、今のオープンチャンネルの会話を聞いていた大隊の仲間たちが道をあけてくれた。

 俺たちの小隊はその道を突き進み、大隊長のもとへと急行する。やがて到着した俺はそのまま近距離レーザー通信をオンにし、大隊長に作戦の説明を行った。

「確かに、その作戦であればあれを止められるかもしれんな。ただ、他の大隊との連携れんけいも必要になるので、これからすぐに上にも連絡してくる。お前には一個中隊を預けるので、その作戦内容に沿って準備をしていてくれ。そして、こちらからの信号弾を確認後、準備状況を報告するように」

「はっ!」

 俺は敬礼を返し、指揮権を預けられた中隊を率いて前線へと準備に戻った。

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