第27話 死神殺し

 俺は預けられた中隊で近距離レーザー通信網を構築し、移動しながら作戦の説明を行った。

 やがて作戦予定地に到着した俺は、そこに転がっていたブリキ野郎の剣を一本拾い上げ、地面に深々と突き刺した。

「ニール、あれが目印だ。手筈てはず通りに頼む。……すまんな、無茶をさせることになってしまって」

「お前が何を気にする必要がある? これはエリートである俺にしかできないことだ。それに、あれを止めなければ、戦友たちが次々にられてしまうからな」

 本当にニールはいいヤツだ。下準備として魔法を使ってもらうのだが、範囲が広すぎてほぼ間違いなく魔力まりょく欠乏症けつぼうしょうで気絶してしまうはずだ。

 それなのに、嫌な顔一つせずに、多脚戦車を降りて作業を開始してくれた。

「ウォルター、ニールのそばにいてやってくれ。地面に倒れこむ前に支えてやって欲しい。そして、そのまま後方へ送り届けてくれ」

「ああ。任せてくれ」

 やがて準備を完了したニールが崩れ落ち、それをウォルターがそっと支える。

 魔力欠乏症による気絶は、場合によってはそのまま命を落とすこともあり得るぐらい危険なものだ。

 そんな無茶を大切な仲間にさせざるを得ないことに忸怩じくじたる思いがあるが、今はそんなことを言っている場合ではない。

 死力を尽くしてくれたニールの思いにこたえるためにも、俺は預けられた中隊の配置を完了し、信号弾が上がるのを待つ。ちなみに、俺の小隊は予備兵力として、少し後ろに配置している。

 しばらくするとニールを送り届けてくれたウォルターも帰還し、配置についてくれる。

「ニールだが、命に別状はないってよ」

 その報告にほっと胸をなでおろしていたとき、ヒゲの大隊長からの数発の信号弾が上がった。

 内容は──ジェフリー小隊、報告せよ。

 俺は操縦席のボタンを操作し、機体後部の射出口からこちらも信号弾を上げる。

 内容は──ジェフリー小隊、準備完了。

 それからしばらくすると、後方の前線司令部あたりから信号弾が上がる。

 内容は──作戦開始。

 それとともに、友軍からの一斉砲撃が開始された。フレンドリーファイアもいとわない苛烈かれつな砲撃だが、それでも素早すばやい戦場の死神しにがみには当たらない。

 しかし、これでいい。これを当てる必要はない。

 やがて砲撃によって回避先を誘導された戦場の死神しにがみが、ニールの作成した渾身こんしんの罠へと足を踏み入れる。

 その瞬間、足をとられて斜めに沈み込みながらもがきだす戦場の死神しにがみ

 そう。ニールが作った罠は、まず水魔法と土魔法の複合魔法で泥沼を作り、その上に薄く土魔法でふたをして偽装ぎそうした、一種の落とし穴だ。

 俺は待機していた中隊に、素早すばやく指示を出す。

「今だ! 一斉砲撃開始!!」

 一個中隊、計十二機が落とし穴の周りにあらかじめ半包囲するように陣取っており、その集中砲火が連続して戦場の死神しにがみへと殺到する。

 しばらく念入りに砲撃を加え続けると、やがて死神しにがみの操縦席が爆発し、炎上を始める。

「戦場の死神しにがみをしとめたぞ!!」

 この場にいる全ての仲間たちに聞こえるように、俺は多脚戦車の外部スピーカーを使い、大音量で報告する。

「「「おおおおおおおおおお!!」」」

 その直後、仲間たちからの勝鬨かちどきが上がる。

 そしてこれが、戦友たちから死神しにがみ殺しと俺が呼ばれるようになった出来事の瞬間となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る