第24話 戦場の死神

 俺の名前はラニエロ・チッコリーニ。南部戦線で平の多脚戦車乗りをやっている。顔は特徴がないのが特徴と言われるほど、ごくごく平凡な南部顔をしている。

 そんな俺が兵士になったのは、ズバリ、女にモテたかったからだ。戦場でカッコよく戦っていれば、恋人の一人ぐらいはできるだろうと考えていた。

 結果は、まぁ、察してくれ。

 現在の俺たちは、主に数を増したブリキ野郎と戦っている。

 まだまだブリキ野郎は弱いため、この一か月ほどで俺のふところもだいぶうるおった。だから、この戦いが終わったら、預金通帳の残高を武器にして嫁探しをする予定だ。

 ちなみに、敵の多脚戦車がブリキ野郎かそうでないかの見分けは、割と簡単にできる。

 人が乗っている従来のタイプは、ろっ角錐かくすいを半分に切ったような形状で、迷彩めいさい塗装とそうがなされている。

 それに対し、ブリキ野郎ははっ角錐かくすいを半分に切ったような形状で、明るい灰色で塗装とそうされている。

 俺が英雄になれないことはとっくの昔に理解しているため、できるだけ安全に金を稼ぎたい。

 だから、俺はブリキ野郎を積極的に狩っているってわけさ。

 今日も今日とて、預金残高を増やそうと戦争にはげんでいる。

 いつもの手順が終わり、さて、本格的な近接戦闘に移ろうかと考えていた矢先に、それは起こった。

 俺の三台右隣の多脚戦車が、突如とつじょとして大破した。

「なんだ? 何が起こった?」

 俺は状況が理解できず、のんびりとそんなことを口走っていると、今度はその隣の多脚戦車も続けて大破した。

 一瞬のことだったが、敵の多脚戦車が素早すばやく距離をとっていく様子が、今度はかろうじて見えた。

「新型のブリキ野郎だ!」

 隊の誰かが外部スピーカーをオンにして叫んでいた。

「速すぎて、あんなの避けられねぇ!」

 俺も思わず独り言を叫んでいた。

 その間に、今度は俺のすぐ左隣の多脚戦車が大破していた。

 そのあまりにも素早すばやい攻撃に、俺の手が震えだす。

 あれは無理だ。あんなのと、いったいどうやって戦えって言うんだよ?

 続けて俺の全身もガタガタと震えだし、俺の指先がいつの間にか外部スピーカーをオンにしていたようだ。

 そして、思わずつぶやいた俺の声が、戦場にやけにクリアに響き渡った。

「あ、あれは……。戦場の死神しにがみだ……」

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