第21話 少量の希望

 俺たちの士気は目に見えて下がり続けていた。軍の首脳部も頭を抱えているらしく、事態を打開する方法を模索もさくするために、必死になって帝国の情報を集めているらしい。

 一番いいのはこちらもブリキ野郎を量産し、自動人形同士で戦争をやらせることだ。そうすれば、工業生産力に勝る連邦の勝利がほぼ確定する。

 しかし、自爆する人工知能のコア部分は、プログラムを記憶しているストレージの部分が特に念入りに破壊されており、解析するのはほぼ不可能らしい。

 そんな状況の中、俺たちの駐屯ちゅうとんする基地で、前線に今いる部隊以外の全員が集められた。

 なんでも、軍首脳部からの重要な発表があるため、北部方面軍の総司令官閣下からのありがたいお話があるのだとか。

 やがて整列した俺たちの前方に配置されたモニターに魔力が通り、立派な軍服に身を包んだお偉いさんが映し出された。

「諸君。帝国は卑怯ひきょうにも人殺しの自動人形を使って戦争をしている。これはもはや、殺し合いですらない。一方的な虐殺ぎゃくさつである。そのため、最前線で戦ってくれている諸君らのストレスは、相当なものになっていると報告を受けている。

 今日はそんな諸君らに、我ら連邦軍の勝利につながる情報を開示したい。

 連邦情報局からの報告によれば、帝国では深刻な魔石不足が発生している模様もようだ。それにより、これ以上の自立型の兵器の増産は不可能な状況になっている。

 つまり、帝国の生産能力以上の速度で敵を削り続ければ、やがて帝国の戦力は払底ふっていするのだ。諸君らの言うブリキ野郎も、無限にはわいてこない。倒し続ければ、やがて我らの勝利は確定する。

 だから、どうかもうひとりしてほしい。諸君らのより一層の奮戦ふんせんに期待する」

 そう締めくくって敬礼をしたモニターの司令官に対し、俺たちも一斉に敬礼を返す。

 その場で解散となった俺たちは、今の話についての情報交換を始める。

「なぁ、ジェフ。今の話、本当だと思うか?」

 みんなを代表するように、セシィが俺に質問する。俺はそれに対して、肯定する意見を述べる。

「十分にあり得る話だと思うぞ? 今のご時世、どこもかしこも魔物が不足しているからな」

 ちなみに、魔物というのは、体内に魔石を宿している生き物のことだ。魔物は一般の動物と比べて体が大きく、攻撃的になる。そのため、かつては人類の天敵とされていた時期もあった。

 しかし、魔法工学の発達とともに魔石の産出元さんしゅつげんとしてしかみなされなくなり、狩りつくされる勢いで数を減らしていた。絶滅ぜつめつ寸前すんぜんにまで追い込んでしまった人類は、あわてて魔物の保護を開始し、現在では養殖が進んでいる。

 第二次魔法革命の頃は、信じられないことに魔石を使い捨てにするほど余っていたらしい。今では魔力の切れた魔石は回収され、魔力を充填じゅうてんしなおして再利用している。

 しかし、現在の魔道具には金色の粉が必須ひっすだ。そのため、どうしても一定数の魔石は崩して金色の粉にする必要がある。

 ブリキ野郎の生産のためにどの程度の金色の粉が必要なのかは不明だが、それでも数を用意しようと思えば、それなりの数の魔石を消費するはずだ。あれほど精密な魔道具であれば、なおさら必要量も多いと思われる。

「なんにせよ、俺たちのやることは決まったな。とにかくブリキ野郎の数を減らし続ける。それしかない」

 俺が結論を述べると、決意を新たにしたジェフリー小隊の顔が並ぶ。

 これまでは、どんなに敵を倒しても徒労とろうにしかならないと思われていたが、倒し続けていれば、戦争が終わる可能性がわずかながら存在する。

 それがどんなにか細い道だとしても、それ以外にないのだから、俺たちはそれに向かって突き進むしかない。

 この後、連邦は帝国に対して総攻撃を開始し、ひたすらブリキ野郎を倒し続けることになる。

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