第19話 暗転

 それから数か月が経過した、夏もさかりの頃。

 大陸の北部に位置するこの地方ではそこまで気温が上がらず、むしろ過ごしやすいと言える季節になった。

 しかし、増え続ける自立型の新兵器は、兵士全員の心胆しんたんを寒からしめるのには十分すぎた。

 北部戦線はまだマシな方で、帝国の本土が近い南部戦線では、だんだんと厳しさを増してきているらしい。

 自立型はその数を増すごとに戦闘経験の蓄積ちくせきも進んでいる模様もようで、その戦い方がだんだんと洗練せんれんされてきている。

 じりじりと逆転され始めた戦況せんきょうは、俺たちに手堅い作戦をとらせるようになっていた。もはや、以前のボーナス目当てのような戦い方は許されなくなっているほど、押し戻されてしまっているのだ。

「チクショウ。ブリキ野郎ばっかり、次から次へと……」

 思わずといった感じで、セシィが愚痴ぐちをこぼす。もはやそれに軽口を返す余裕はおろか、はげます気力さえもわいてこないほどに自立型の数と割合が増えている。今ではちゃんとした人の乗っていると思われる敵の方が少ないぐらいだ。

 こちらは一つしかない命をけて戦っているというのに、相手は機械で、極論すれば金さえあればいくらでも作り直せるシロモノだ。

 そんなやるせなさからか、いつの頃からか、兵士たちは自立型のことをブリキ野郎と呼び始めた。

 俺もうんざりとしながら、こちらに向かってくるブリキ野郎に対峙たいじする。

 そうすると、相手は初手で飛び掛かって攻撃してきた。

 俺は冷静に車体を左にずらし、それをかわす。すれ違いざまに車体を回転させるようにして左手の盾で強打。横転させてから剣でゆっくりととどめを刺す。

 飛び上がっての攻撃は車体重量ごとぶつかることになるため、一見すると強いように見える。

 しかし、空中では姿勢が制御不能になるため、俺がしたように冷静にかわされると、一転してピンチになる。

 そのため、ジャンプしての移動は飛び退すさって素早く距離をとる以外の使い方はするなと、新兵の間に教官によって叩き込まれる戦訓せんくんだ。

 このようなセオリーを無視した攻撃に、まだまだブリキ野郎の戦闘経験が足りていないことが分かる。

 今はまだ、人類の技術の蓄積ちくせきまさっている。今はまだ。

 しかし、ブリキ野郎の学習速度は加速度をつけ始めており、そう遠くない未来に逆転されてしまいかねない。

 俺はブリキ野郎の炎上する操縦席を横目に見ながら、少しでも自分をふるい立たせるべく、口を開く。

愚痴ぐちを言ってもどうにもならない。とにかく敵を削り続けよう。……俺たちには、それしかできないんだからな」

 少しずつ破滅へと向かっている実感を無理やり無視して、俺たちは戦いを続ける。ほんの少し前までは、俺たちの勝利へと続く明るい未来予想図が広がっていたのに、今ではもう、暗澹あんたんたる未来しか予想できなくなっていた。

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