第18話 不穏な影

 それからも少しずつではあるが順調に攻撃は進み、じりじりと帝国の領土を削り続けていた。

 そんなある日。奇妙きみょうな噂が兵士たちの間に流れるようになる。敵の中に不思議な動きをするグラディエイタースタイルが出るというものだ。

 その敵はまるで死ぬことを何とも思っていないような戦いぶりで、とにかくがむしゃらに下手へたくそな攻撃を繰り返す。

 それだけなら、訓練不足で血気盛んな若者を無理やり動員しているのだろうということで説明がつく。

 しかし、どうしても説明のつかない点があった。

 その敵を撃破し、活動を停止させると、操縦席のあたりが爆発、炎上するのだ。その様子はまるで兵士を使い捨てにしているようで、なぜそんなことをする必要があるのかが全くの不明だった。

 幸いなことに、俺自身はそのような敵と相まみえたことはまだないが、少しずつその数を増してきているらしい。

 その奇妙きみょうな敵の正体について、ある噂がまことしやかにささやかれだしている。

「帝国は、とうとう自立型の人工知能搭載の新兵器を投入してきた」

 撃破されると操縦席のあたりが爆発するのは、技術ぎじゅつ漏洩ろうえいを恐れてのことだというのだ。実際、その操縦席の残骸ざんがいのぞき込んでみても、遺体らしきものが見当たらないらしい。

「ま、その帝国の新兵器とやらは弱っちいみたいだし、余裕、よゆー。」

「ちがいねぇ」

 自身の不安をまぎらわすようにセシィがつぶやき、それをウォルターが肯定する。しかし、兵士ならみんな分かっている。

 そもそも人工知能は、俺たち生身の人とは違ってバックアップやコピーがとり放題だ。つまり、半不死の存在だ。だからこその死を恐れぬ戦いぶりではないだろうか?

 そして、何らかの方法で連絡を取り合っていた場合、戦闘経験が共有され、蓄積されていく。そうすると、今はまだ人よりも稚拙ちせつな戦い方しかできなくても、やがて俺たちには対処不能なほど強くなるのではないか?

 さらに、そのような機体が大量に用意されてしまった場合、果たして俺たちは勝てるのか?

 しかし、そんな疑問はどれ一つとして誰一人口にしない。したところで対処できるわけでもないし、士気が下がるだけで意味がないからだ。

 戦争の天秤がまた大きく帝国に傾くのではないか?

 そんな不安を抱きつつも俺たちは戦いを続けていた。

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