第17話 反転攻勢

 これまでの戦いでは帝国の技術力に押され、どちらかというと守りを固めさせられていた連邦だが、帝国の国力が払底ふっていを始めたと判断し、一転して攻勢に出ていた。

 長大な前線全てで積極的に前進し始め、少しずつではあるが、じりじりと帝国の占領地を削り始めていた。

 俺たちの北部戦線でもそれは同様で、今が稼ぎ時だとセシィとウォルターが競い合うようにして敵を撃破していた。

 ただ、俺がどちらのサポートをメインとするかでもめそうになったため、話し合いを勧めたところ、なんと一日おきに俺とペアになる相手が交代する取り決めになっていた。

 まあ、不毛な争いをされるよりはマシかと、俺は素直すなおに従っている。

 そして今日はセシィとペアを組んで出撃している。

 ちょうどいい塩梅あんばいに孤立しているデストロイヤースタイルを見つけ、俺が積極的に前に出て敵の注意をひきつける。

 セシィは俺の盾のかげにくるような位置取りをしており、少し左後ろから攻撃のチャンスをうかがっている。

 剣と盾を使い、敵の両手持ちの剣をさばき続け、セシィの機体に注意が向きかけると剣を突き入れ、よそ見をするなと無言のプレッシャーを与え続ける。

 そうすると敵はまず俺を排除しようと判断したのだろう、俺にまっすぐに車体を向けた。

 注意がセシィからそれた一瞬のすきをつき、セシィは素早い動きで敵に肉薄。左右二本の剣を交互にふるい、敵の右側面の後ろ脚を二本切り飛ばす。

 敵がグラついたタイミングで俺も残っていた右の前足を切り飛ばすと、敵はたまらずに横転した。

 もはや案山子かかし同然の状態となった敵にセシィは大振りの二連撃を加え、とどめを刺す。

「やりぃ! ボーナスゲットだぜ!」

 短い時間で敵をほふれたためか、セシィのテンションもアップしているようだ。そんなセシィと俺は雑談を始めた。

「この程度の相手なら、セシィ一人でも簡単にれただろう?」

「そりゃそうだけどさ。ジェフがいると相手の攻撃をさばくことを考えなくてもいいから、攻撃に専念できて気持ちいいんだよ」

「そりゃどうも」

 俺たちは戦場のど真ん中でのんびりと雑談をかわしている。それが許されるぐらいには敵の密度が下がってきていたからだ。

「しかし、今日の敵陣はまた一段と薄いな」

 俺がそう感想を述べると、セシィも同じように感じていたようだ。

「ああ。これなら、予想していたよりも早く帝国が崩れてくれるんじゃねぇか?」

「そうかもしれないな。だが」

 俺がそこまで言うと、セシィは俺の口癖くちぐせに合わせてきた。

「「油断は禁物だ」」

 俺たちはモニター越しに顔を見合わせ、クククと軽く笑いあう。

「こうやって雑談している時点で、もうかなり油断しているんだ。これ以上気を抜いて、られてしまわないようにしないとな」

 俺がそう注意を述べると、セシィがまた俺の口癖くちぐせを引用してきた。

「分かっているって。『あの世にまで金は持っていけない』……だろ?」

 そう言って、セシィはまたクククと笑っている。

 俺は気を引き締めるべく、これからについての意見を述べる。

「相手はあの帝国だぞ。このままズルズルと手をこまねいて滅亡してくれるとは、とても思えない。何か一発逆転の手を狙ってくるかもしれないから、気を抜きすぎないようにしてくれよ?」

 俺がそう言うと、セシィは肩をすくめながら持論を展開する。

「あたいはこのままでいいんだよ。そうやって昔からジェフが周りに気を配っていてくれるから、あたいはちょっと前掛まえがかりなぐらいでバランスが取れてちょうどいいのさ」

「ま、それは称賛しょうさんされていると思って、素直すなおに喜んでおくよ」

 俺たちはそうやって他愛もない会話を交えながら敵をほふり続けた。

 ようやく連邦側にかたむきつつある天秤てんびんに俺たちの軍の士気は上がり続け、笑顔が増えていった。

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