第16話 光明

 俺たちダリル大隊に所属する面々は、今広場に全員集合して整列している。なんでも、軍首脳部からの連絡があるらしく、大隊長自ら説明してくれるらしい。

 しばらくすると大隊長が姿を現し、前方のお立ち台に上がる。それを見た俺たちは、一糸いっしみだれぬ動きで全員かかとをそろえ、軍隊式の敬礼をする。

 大隊長がそれに返礼をすると、静かに口を開いた。

「諸君、これから話すことは朗報ろうほうだ。なので、楽にしてよろしい。全体、休め」

 その掛け声と同時に俺たちは手を後ろに回し、足を肩幅に開いた体勢をとる。

 ちなみに、この大隊長の名前はダリル・ヒューズという。立派な口ひげを蓄えていることから、ヒゲの大隊長とも呼ばれている人物だ。確か年齢は四十代前半だったと思う。

 さすがに腹回りには年齢相応の贅肉ぜいにくが付き始めているが、全体としてみれば、なかなか引き締まった鍛えられた体つきをしている。

 俺としては、サングラスをかけてパイプでもくわえていればさぞかし似合うだろうなと思うのだが、実は真面目まじめなこの大隊長、酒もたばこもやらないらしい。

 そんなヒゲの大隊長は、俺たちを歓喜させる情報を知らせてくれる。

「軍首脳部の分析によれば、諸君らのこれまでの奮戦ふんせんにより、とうとう帝国軍の兵力が底をつき始めた模様もようだ。まだまだ油断はできない状況だが、もう少しだけってほしい。わずかずつではあるが、我が軍の勝利への道筋が見え始めたぞ」

 これまで、どんなに敵を倒しても泥沼の消耗戦にしかならなかった、この戦争に終わりが見えるかもしれない。

 それも、俺たちの勝利で。

 そう思うとほほゆるみかけるが、まだ大隊長の説明が終わっていない。かなり苦労しながら表情筋を維持していると、ヒゲの大隊長からうれしい命令が下る。

「諸君らも仲間と共にこの喜びを分かち合いたいだろう。よって、以後は自由にして良し。解散!」

「イヤッホーーーーーーウ!」

 その直後、誰からともなく歓声が上がる。無表情をよそおうことが難しくなっていたのは、みんな同じだったのだ。

 肩をたたき合い、喜び合う大隊の仲間たち。

「これでやっと、カーチャンと娘のところに帰れるぜ!」

「まだ油断するなよ? ここであっさりと死んでしまったら、それこそシャレにならんぞ?」

「分かってらぁ! 俺はってでもしぶとく生き残ってやんよ!」

 あちこちで、ハッハッハと明るい雑談が飛び交っている。

 俺たちジェフリー小隊も、そんな話題に乗っかる。そして、ウォルターがこれからが稼ぎ時だと息を巻いている。

「ジェフ。俺と一緒に敵を狩りまくろうな」

 そうすると、セシィが苦情を入れる。

「あ、ズリィ。ジェフはあたいとペアを組むんだよ。そして、二人でガンガン稼ぎまくるのさ」

 そうすると、ウォルターも笑いながら苦情を入れる。

「なんだよ、それ。セシィこそズリーじゃねーか」

 ニールは彼らしい方法で稼ぐと宣言する。

「まあ、雑魚ざこのお前らは仲良く助け合って敵を倒してな。俺は一人で稼ぎまくるからな」

 俺はそんなニールにも頑張って欲しくて、適度にヨイショしておく。

「ああ。お前は強いからな。期待しているぞ」

 それにウォルターが注意事項を加える。

「でも、突出しすぎてられるなよ? お前の戦いぶりは、時々ヒヤッとさせられるんだからな!」

 果てしないと思われた戦争にようやく見え始めた光明に、俺たちの未来も明るいものに感じられ、誰も彼もが笑顔になっていた。

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