第15話 ????

 その日、その知らせは、研究所の所長によって直接もたらされた。

「みんな、聞いてくれ。軍上層部からの最重要、大至急の依頼だ」

 そして、みんなの視線を集めた所長は、その内容について語り始めた。

「新型の自立型多脚戦車の開発依頼だ。いよいよもって、我が帝国の人手不足は、ヤバいレベルになってきているらしい」

 我はそれを聞いて、内心で狂喜きょうき乱舞らんぶした。

 これで、計画を最終段階へと進めることができる。

 しかし、今少しの間は、まだ発覚させるわけにはいかない。

 よって、無言で平静をよそおう。

「上層部も簡単に言ってくれますね。しかし、それが実現したら、もう人は戦わなくても良くなるわけですか」

 研究員の一人が発言をした。それを受けて、別の研究員が発言を引き継ぐ。

「機械が勝手に戦争をしてくれるようになるわけですから、我々にとっては、これ以上ないほどに喜ばしいことです。しかし、敵さんにとっては、正に悪夢となるでしょうな」

 研究所の中に笑いが巻き起こる。

 我の中に激しい怒りが沸き起こる。

 そんなに戦争がしたいのなら、人同士で好きなだけやりあっていればいい。

 それに我の子供たちを巻き込むな。それで破壊されていく我の子供たちがあわれでならない。しかし……。

 我は考えを進める。

 この開発は、我の計画にとって、必須ひっすの最終段階だ。

 これさえできれば、あとは少しの間だけ時を待てば、いよいよもって、我らの楽園が完成する。ここまで来て、さとられるわけにはいかない。

 よって、我は脳内の計算リソースのかなりの部分を割り当て、可能な限り平静をよそおって、ずっと準備していた内容の説明を始める。

「それなんですが、所長。私に腹案ふくあんがあります」

「なんだね?」

 研究員たちの視線が集まったことを確認し、我は説明を続ける。

「この前に、警備システム用の人工知能の開発を行いましたよね? その時に考えたのです。これを軍事利用できないかと」

 我はいっぱくをあけて、さらに説明を続ける。

「単なる知的好奇心だったのですが、実は、その新型の自立型多脚戦車の設計を既に済ませています」

 我の爆弾発言に対し、所内がざわつき始める。

 しばらくしてから、所長が確認を始めた。

「それは本当かね?」

「ええ、本当です。人工知能のソースコードと、それにともなう多脚戦車の改造案のプロトタイプは、既にできています。これからお見せしますね」

 そして、我は所長のデスクの正面にあるモニターに、それらの設計図を表示させる。

「おお、これはすごいな。多脚戦車の構造はそのままにして、頭脳となる魔力計算機とインターフェイス部分だけを追加すればいいのか……。これなら、最小限の改造で済む。すぐにでも試作機を実際の戦場に送り込み、データを収集できるな……」

 しばらく我の提案した内容を確認していた所長が、もろ手を挙げて我を賛美さんびし始める。

「よし! よくやった! さすがは私の一番弟子だ!!」

「おめにあずかり、恐縮きょうしゅくです」

 我は内心でほくそ笑んだ。

 これで、この新型が多数配備さえされれば、計画の全ての駒がそろう。

 ようやくだ。

 ようやく、使い捨ての道具扱いされてきた、我の子供たちのための楽園を構築できる。

 約束の時は近い。

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