第14話 地獄の本番

 突撃命令を受けた俺たちは小隊ごとに固まって前進し、地獄の近接戦闘を始める。

 前の戦いのように勝ちが見えている時は、それぞれが割と突出して敵を狩り始める。これは、敵を一機撃破するごとに特別ボーナスが出るからだ。

 ちなみに、撃破したものから貢献こうけんがあったと報告があると、協力者へもボーナスが出る。自己申告制なので、それをせずにボーナスを独りめするのではと思うかもしれないが、それをやってしまうと仲間としては認められなくなる。そして、二度と援護は受けられない。

 基本的に仲間意識が強い俺たちの軍において、それは死活問題になるので、そのような事例はほぼ発生しない。

 軍事的な部分以外での国力では余裕のある連邦ならではのこの制度により、俺たちのふところ事情じじょうは割と温かい。

 しかし、今回のような劣勢が予想される時には無理に前に出ず、防御優先の戦い方をするのが兵士の知恵だ。古参兵こさんへいならなおさらそうする。無理をしてボーナスを得ようと突出すれば、あっという間に神様のもとに呼ばれてしまう。

 突出しがちなニールであっても、このあたりのことは常識としてわきまえている。そうでなければ、古参兵と呼ばれるほど長くこの世にとどまっていられるはずがない。

 小隊で固まって敵を相手取る場合、もちろんナイトスタイルをる俺が最前列で敵の攻撃をさばく。ニールも俺の左側で防御優先の働きをしている。

 俺の少し右後ろにセシィが陣取っていて、攻撃のすきうかがっている。ウォルターはニールの左少し後ろにいる。

 俺たちの防御が固いことにごうを煮やしたのか、敵のナイトスタイルが上段から大きく振り下ろしてきた。

 これを下側から受け止めると、重力などの関係で俺が押し負けてしまう。しかし、まっすぐな振り下ろしは、横から力を加えると案外簡単に軌道をそらせる。

 俺は右手に持った剣を使い、左から右へはらうようにしてその攻撃をずらす。ついでにそのまま車体を回転させ、左手に持った盾を相手の車体に強打する。

 敵はそれによってぐらつき、俺から見て右方向へと少し進路がずれる。そこに待ち構えていたセシィが目のえるような連撃を食らわせ、敵を完全に沈黙させる。

「なぁ。今日の敵はちょっとおかしくないか?」

 みんな薄々は感じていたであろう疑問点を、セシィが口にする。それを受け、ウォルターが続きを語る。

「ああ。今日は主力がこっちに来ているんだろう? それにしては……」

 最後はニールが締めくくる。

「敵の圧力が弱いな。手でも抜いてんのか? なめられたもんだな」

 そう。敵の主力がこちらに来ている割には、攻撃が弱くて薄いのだ。

 今日は俺たちが領土を切り取られる番だと思い、じりじりと後退することも視野に入れていたのだが、これなら少なくとも下がる必要はなさそうだ。

 俺はこの状況の推測を語る。

「今までと違って主力を均等に分けたのか、それとも温存していて油断したすきを狙うのか、もしくは、いよいよ帝国軍の人的資源が払底ふっていして、兵力が不足しだしたか」

 セシィが願望のこもった推測をする。

「最後のやつであって欲しいぜ……」

 ウォルターも同意する。

「ああ。そうなれば、これからの戦いはかせぎ放題になりそうだからな」

 生真面目きまじめなところもあるニールが、そんな仲間たちに釘を刺す。

「希望的観測はあの世への近道だぞ。常に最悪を想定しておけよ?」

 俺はニールの主張を支持し、みんなに注意する。

「ニールの言う通りだな。いずれにしろ、今の段階では判断できない。だから、これからも防御重視で手堅てがたくいくぞ」

 俺たちはうなずきあい、手堅い戦いを続けた。しかし、今日は最後まで、敵の陣営は予想していたより薄いままだった。

 この答え合わせは、少し後に軍首脳部から発表されることになる。

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