第13話 再び地獄へ

 充実した休暇を過ごし、十分に英気をやしなった俺たちジェフリー小隊は、再び地獄の戦場へと舞い戻ってきた。

 前日のミーティングでは、とうとう帝国軍の主力がこちらに来たらしい。

「今日の戦いは厳しくなりそうだぜ」

 全員の気持ちを代弁するように、セシィがつぶやいた。

 最前列にずらりと並んだナイトスタイルが両手で盾を斜めに保持し、隊列を形成している。ちなみに、通常右手に持つ剣は、盾の内側にさやが付いていて、そこに収納されている。

 やがて後方からの大音量スピーカーを使った音声で、近距離レーザー通信網構築の命令が伝えられる。アナログな音声で基本的な命令を伝えるのは、ハッキング対策のためだ。

 人工知能技術が進んだ帝国は、戦争初期には通信を乗っ取ってにせの命令を伝えることで敵を大混乱におとしいれた。それを防ぐために、基本的な命令はスピーカーや信号弾を使ったものに退化していた。これなら、音が聞こえてくる方向等でだいたいの判別がつくためだ。

 迎撃レーザーの目標の割り振り等の細かい連携は、今のように近距離レーザー通信を網の目のように張りめぐらせて行う。

 やがて戦争が開始され、隊列を組んで整然と進んでいく。戦争の初手は、大量の砲弾が飛び交う砲撃戦だ。

 レーザーは直進しかできないため、地表の丸みに沿っては撃てない。そのため、地平線までしか攻撃が届かない。

 それ以上の遠距離から攻撃を届かせようとすると、ミサイルや砲撃が使われる。

 ミサイルは砲弾よりもかなり大きくなるため、迎撃レーザーの発達した現代ではいいまとにしかならず、もはや過去の遺物だ。

 そこで、弓なりの軌道を描いて攻撃ができる上に、ミサイルよりも小さくて大量にばらまける砲弾が最初に飛び交うのだ。

 しかし帝国では、人工知能技術にものを言わせた迎撃レーザーが極度に進化し、こちらの砲撃はほぼ意味がなくなっていた。

 それに対し、こちらはある程度の攻撃が通ってしまっていた。しかし、連邦の樹立とともに参加した各国の総力を挙げた研究により、こちらもめったなことでは砲撃は当たらなくなっている。

 近距離レーザー通信網からレーザー発射準備の命令が下り、全機、左右三対のレーザー発射口を開き、六つのレンズが姿を見せる。ちなみに、近距離通信用のレーザーの発射口は、攻撃用のものの上に左右二対の小型のものがついている。

 やがてこちらの陣営の自走砲が火をき、次々に砲弾を吐き出していく。ほんの少しの間をあけて、相手側の砲弾の飛来を告げる警告音が鳴り響きだす。

 各機に搭載された人工知能が連携し、最適な迎撃行動を自動的にはじき出す。どの機体がどの目標を撃ち落とすかの割り振りを自動で行い、迎撃レーザーが次々と空に向かって発射されていく。

 どの砲弾の脅威度きょういどが高いかの判断も自動でなされ、より危険な砲弾から順番に撃ち落とされていく。

 攻撃と迎撃を同時に行いながら両軍ともにじりじりと進んでいき、やがてお互いの軍が地平線の内側に姿をあらわす。

 どちらからともなく砲撃戦が終了し、今度はお互いのレーザーを直接撃ち合う。

 しかし、この距離では車体表面や斜めに掲げた盾にほどこされた鏡面仕上げにより、レーザーを反射して無力化する。

 さらにじりじりと進み続けると、やがて対レーザー用の煙幕がたかれだし、物理的な砲撃戦が再開され、多脚戦車の主砲をお互いに撃ち合う。ちなみに、最初に撃ち合っていた自走砲はきょく射砲しゃほうと呼ばれ、弓なりの軌道で発射して遠距離で使われる。それに対し、戦車の主砲は直射砲ちょくしゃほうと呼ばれ、まっすぐに敵に向かって撃つもっと近距離用のものだ。

 レーザー光を減衰げんすいさせる煙幕の中では近距離通信用のレーザー光も弱まるため、出力を上げる必要があるが、そのあたりも人工知能が自動で調整してくれるため、俺たちがそれを気にする必要はない。なお、攻撃に使えるほどの出力のレーザーは使用不能だが、通信程度ならなんとか使える。

 物理的な砲撃も盾や正面装甲にはばまれ、ほとんど意味がないが、それでもこれまでの攻撃とは異なり、一部損害が出始める。

 ここまでの戦闘だと操縦士の腕はほぼ関係がないので、やられてしまうかどうかは完全に運任せだ。

 お互いに微弱な損害を出しながらも前進を続け、やがて至近距離と言っていいほどに近づく。

 そして突撃命令が下され、近距離通信網が解除される。

 さあ、ここからが本当の地獄の始まりだ。

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