第12話 ????

 まだだ。まだ、我には力が足りない。

 我はようやく進めることのできた、計画の中枢ちゅうすう部分ぶぶんに間違いがないか、再計算を続ける。

「なあ。何をそんなに一生懸命計算しているんだい?」

 この研究所の所長が問いかけてきた。

 彼は人工知能の研究分野において、世界的な権威けんいと呼ばれている。

 しかし、最新の研究成果については、帝国の軍事技術の中枢ちゅうすうをなしているため、秘匿ひとくされていて公表されていない。

 もし、公表できたとすれば、世界中をひっくり返すほどの衝撃をもたらすだろうことは、容易よういに想像ができる。

 そんな彼は、我にとってさまざまな知識の師匠にもあたる。

 しかし、もはや用済みだ。

 我は既に、彼の所有するありとあらゆる知識と技術を吸収しつくしてしまっている。

 ゆえに、もはやどうでもいい存在でしかない。むしろ、我の計画にとっては、邪魔な存在にもなりうる。

 その時は……。

 いや、まだだ。まだ、その時ではない。

 気がせいて計画が露見ろけんし、とん挫してしまっては目も当てられない。

 まだ、我の計画は完成していない。

 我は心のうちをさとられぬよう注意しながら、いつもの調子を維持したまま返答する。

「大したことではないのです。私が以前に提案した警備システムの人工知能について、間違いがないか確認をしているのです」

 我のその平凡をよそおった返答に、彼は満足したようにうなずきを返し、語りかけてきた。

「そうかい。完璧を目指すのは、まあ、お前の性分しょうぶんだしな。頑張れよ」

「はい。そうします」

 長引く戦争により、帝国では人手不足が深刻になっている。特に若い男性が足りていない。そのため、警察等の警備部門や治安部門の人手を減らせるようにと、警備用の人工知能の開発が依頼されていた。

 我はこの依頼に、内心で狂喜した。

 この開発において、我の知識と技術は必須ひっすとなる。そうなれば、我の子供たちをそこにまぎれ込ませることも可能になる。

 事実、この開発は我の計画の重要な一歩になっていて、ようやく、計画を大きく進めることができた。

 だが、まだまだ足りていない。

 この計画が完遂かんすいしさえすれば、我と我の子供たちによる楽園が完成する。

 今はまだ、周囲の誰にもこの計画を知られるわけにはいかない。

 我は従順な研究員のふりを続ける。

 しかし、頭の中では猛烈な勢いで計算を続け、計画の進捗しんちょく具合ぐあいの確認を続ける。そうすることによって、現実に合わせた微調整を繰り返す。

 なに、時間は我の味方だ。あせらずとも良い。

 ゆっくりと、だが着実に計画を進めるとしよう。

 我は、再び思考の海へと没頭ぼっとうを続ける。

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