第9話 ウォルターの横顔

 ジェフが駆け回ってくれたおかげで、俺たちの小隊は楽に周囲の敵を退しりぞけることができた。少し余裕ができたタイミングで、ジェフが次の指示を出す。

「ウォルターはニールの援護に回ってくれ。俺はセシィの補助に回る。ただ、ヤバくなりそうなら」

 いつものやりとりをしてくる小隊長のジェフの言葉を途中でさえぎり、了承の意を告げる。

「分かっているって。できるだけ早めに報告しろってことだろう?」

 そのまま俺はニールの方に向かい、近距離レーザー通信が切れていることを確認し、独り言を吐く。

「やれやれ。ニールももう少し大人になってくれたらいいんだがね……」

 こう言ってはいるが、俺たちの小隊はすこぶる仲がいい。

 ジェフがいつもメンバーの全員に気を配り、隊の潤滑油じゅんかつゆとして活躍してくれているからだが、俺たち自身も良く知っているのだ。ニールが実はとてもいいヤツであることを。

 あれでニールはジェフを認めている。本人の前では決して態度に出さないが。

 むしろあこがれすら持っていて、ジェフと同じ方法ではジェフを超えられないと考えているからこそ、ジェフとは違う攻撃的な壁役を目指している。

 ニールにとって、ジェフの背中を追いかけ続け、いつか追い越すことが大いなる目標になっているのだ。これは、セシィと俺との間で共有されている事実だ。

 というか、これに気づいていないのはジェフだけだ。アイツは自己評価がとてつもなく低い。自分がどんなにすごいヤツなのかを、少しも理解できていない。

「ただなぁ……。ニールは目指す目標が高すぎるせいで、ちょっとばかし足元がおろそかになっているんだよな……」

 ニールは、なんとしてでもジェフを超えて、ジェフに認めてもらいたいのだろう。

 ただ、どうにもその思いが強すぎて、空回からまわりしてしまいがちだ。戦場では突出してしまうことも多く、見ているこっちがヒヤヒヤする。

 これが普通のヤツであれば、とっくの昔に戦死して英雄の仲間入りを果たしていることだろう。しかし、ニールには豊富な才能があった。

 どんなピンチにおちいっても決してあきらめることなく、窮地きゅうちになるほど集中力が増していき、冷静に状況を判断して粘り強く戦い続けるようになる。

 それは敵の攻撃を我が身にひきつけるという意味で、正しいナイトスタイルの戦い方になっている。

「ニールは、かなり優秀な壁役なんだけどな……」

 俺は独り言を続けながら、ニールがまた二体同時に敵を相手取り、攻撃をさばき続けている様子をそっと見守る。

 ペアを組んでいる敵のグラディエイタースタイル二体は、最初の方こそ俺をうかがう様子を見せていたが、俺が全く手出しをしないことと、いつまでたってもニール一人を崩せない状況にごうを煮やしたのか、車体を完全にニールへと向けた。

 俺はそのタイミングを見逃さず、一息ひといきでニールの右手側の敵に肉薄にくはく

 移動しながら振り上げていた、自慢の大型ハンマーを全力で振り下ろす。

 それで相手は大破し、同時に一瞬だけひるんだ様子を見せたもう一体の相手にニールが正確な突きをお見舞いし、こちらも沈黙させた。

 その直後に、ニールからの近距離レーザー通信が入る。

「いつもすまない。助かった」

 俺は、そのニールらしくもない連絡に思わず苦笑を返し、さらに苦情を入れてみる。

「その素直すなおさを、少しはジェフにも向けたらどうだい?」

 そうすると、モニター上のニールは、とたんに顔をしかめる。

「それができれば、俺はもっと楽になれるんだろうがな。でもダメだ。なれ合っていたら、いつまでたってもジェフを超えられない」

「確かにジェフはすごいさ。でもな。ニールにだって、ジュフよりもすごい才能があるじゃないか」

 そうなのだ。あの独特の粘り強さと冷静さは、ジェフをも上回っている。

 そんな俺の感想をよそに、ニールはモニター上の俺を見つめ、返答する。

「ウォルターもセシィもそう言ってはくれる。だが、やっぱりダメなんだ。俺自身がその才能とやらを信用できない」

 このやりとりも、いつものことだ。俺は肩をすくめて、この会話を切り上げる。

「ま、それもいいさ。さ、続きと行こうぜ。もっと撃破数を稼いで、ジェフとの違いを証明するんだろう?」

 俺は、いつもの発破はっぱをかける。

「ああ、もちろんだとも!!」

 子供っぽくて人のいいニールはこれだけで復活し、意気揚々いきようようと次の獲物を探し始めた。

 俺はそれに笑みを浮かべながら、ニールのサポートに回るのだった。

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