第7話 ウォルター

 俺がこれからサポートするのは、ウォルター・コールドウェルというヤツだ。

 154.2アッシュ(185cm)という恵まれた長身をほこっているが、なぜか筋肉や贅肉が付きにくい体のようで、とても痩せている。

 ただ、こいつの前でヒョロガリという言葉は禁句だ。絶対に殴りかかってくる。

 しかし、素手での殴り合いはめっぽう弱い。それでも相手かまわず殴り掛かるものだから、あちこちでボコボコにされていた。

 そんなコンプレックスのためか、ウォルターの愛機は両手持ちの重たいハンマーを振り回す、デストロイヤースタイルだ。

 屈強な肉体を得たウォルターは正に水を得た魚で、攻撃が当たりさえすれば必ず敵を粉砕する、一撃必殺の強力なアタッカーになっていた。

 ただ、敵が素早すばやい動きで回避に専念するようになると、対応に苦慮くりょする場面もある。今相手にしている敵が正にそのタイプだ。

 俺はしばらく様子を見て、サポートの最適なチャンスをうかがう。そうすると、ウォルターの大振りを避けようとして後ろに飛び退すさったすきを見逃さず、盾を掲げて車体ごと衝突させた。

 いかに機動力に優れたタイプといえども、空中にいる一瞬だけは回避不能になる。案の定、敵は横転し、動きを止める。

 それを見逃すほどウォルターは甘くない。巨大な愛用のハンマーがうなりをあげて命中し、敵を粉砕する。ほどなくして、ウォルターからの近距離レーザー通信が入る。

「今回も助かったぜ。やっぱり、お前がいると安心して大振りできるから気持ちいいな」

 俺はそれに肩をすくめながら返答する。

「まあ、俺はお前みたいに効率よく敵を倒せないからな。ちまちまと削るくらいがせきの山さ」

「そんなに謙遜けんそんするなって。お前がいるのといないのとでは、俺の撃破率がダンチなんだからよ」

 俺が近くにいると、ウォルターは決まってすきを作る。俺を信頼してくれているのはうれしいのだが、もうちょっと警戒もしてほしい。

 やがて、ウォルターから見て左前方から敵のデストロイヤースタイルが迫ってくる。しかし、ウォルターは安心しきっているようで、ピクリとも反応しない。

「信頼してくれているのはうれしいさ。でも、もうちょっとは、警戒も、して、くれ、よっと」

 俺は素早く機体をウォルターの前面に移動させる。

 敵の武器は両手持ちの斧だ。まともに受けたら盾ごと持っていかれるだろう。そのため、真正面から受け止めるのではなく、盾を横に振り回し、横方向から力を加えて斧を弾き飛ばす。

 その衝撃で敵の体勢が流れ、崩れる。

 その直後、ウォルターのハンマーが操縦席のある頭部にあたる部分にめり込み、粉砕した。

「まあ、そういうな。戦場では気が抜けるときに抜いておかないと、最後まで立っていられなくなるからな」

 そう言ってウォルターはいい笑みを浮かべ、親指を立てる。

 俺はそれに苦笑を返し、次の行動について指示を出す。

「少しセシィの側によって、敵を排除していてくれ」

「了解。で、お前はいつもの子守りか?」

「ああ。ま、アイツは俺にサポートされても、苦々にがにがしい思いをするだけだろうが」

 俺たちは苦笑しあい、俺はすぐさま、小隊の最後のメンバーのもとへと急いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る