第4話 現在の戦況

 俺が訓練を終えて戦場に配置された頃、なんとも間の悪いことに、この大陸は世界大戦となった戦争の真っ盛りだった。

 大陸の東端にあるゼーレ帝国は、その進んだ人工知能技術を利用した強大な軍事力を背景に、だんだんと周辺諸国に尊大な態度をとるようになっていった。

 やがてついには一線を越え、周辺のとある国と戦争を始めた。

 そうすると、帝国は圧倒的な勝利を収めてしまった。現代戦において、人工知能技術がいかに重要かを示してしまったのだ。その結果、さらに増長した帝国は、次々に周辺諸国へと宣戦せんせん布告ふこくを繰り返した。

 またたく間に大陸の四分の一を帝国に切り取られた時点で、他の全ての国々がやっとその状況のマズさに気づいた。バラバラに対処していたのではとても対抗できないと遅まきながらに理解し、連合軍を作って対抗し始めた。

 世界大戦の始まりだ。

 しかし、連合軍とはいっても寄せ集めの軍勢では、まだ帝国を止めるにはいたらなかった。その進撃の速度を少し遅らせただけだ。

 大陸の東側三分の一を失った時点で、ようやく他の国々は軍の指揮系統を統一し、セッテルンド連邦国の樹立じゅりつを宣言した。ちなみに、セッテルンドとはこの大陸の名前だ。

 まだ装備等にバラつきがあるが、それでも統一された指揮のもとに動ける軍の設立により、ようやく帝国と拮抗きっこうし始めた。これには、帝国本国から離れすぎ、長くなりすぎた前線の影響もあったのだろうと言われている。

 帝国は、全てを圧倒できるほどの兵力を前線全てでは運用できず、結果として、数に勝る連邦が押しとどめることに成功していた。

 これらの反省から、これからは装備面でも統一が進んでいくだろう。

 事実、俺の乗っている多脚戦車も連邦の新型で、統一タイプの量産型であるアルヴァロⅠ型に変更されている。

 車体表面は、遠距離からのレーザー攻撃なら反射して無効化できる鏡面仕上げだ。さらに中距離からの質量弾攻撃をはじきやすいようにと、傾斜けいしゃ装甲そうこうになっている。つまり、切っ先が前方下部にあり、後ろに行くほど上部に高くなる、円錐えんすいを半分に切ったような形状に六本の脚と二本の腕、そして車体上部に一門の主砲と二門の副砲の砲身が生えている。

 レーザー光を少しでも反射しやすいようにと、車体のカラーリングは全機白で統一されている。

 ちなみにこの多脚戦車、一部の女性からの評判がすこぶる悪い。

 ただでさえ六本脚でウネウネと歩く上に、側面に配置された六門のレーザー発射口が昆虫の複眼を連想させるようで、虫型戦車と呼ばれてみ嫌われていたりもする。

 現在の戦況せんきょうは、正に一進一退だ。

 南部戦線で押し込まれて領土を一部切り取られると、北部戦線で押し込んで一部領土を切り取る。

 そうすると、今度は帝国の主力が北部に取って返し、北部で押し込まれ、南部で押し込む。

 キルレシオの差さえ無視すれば、完全な膠着こうちゃく状態じょうたいにあった。

 泥沼の消耗戦しょうもうせんとは正にこのことで、いつになったら終了するのか分からない戦争で、双方共に死体の山を築き上げ続けていた。

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