幕間 暴露

 目の前で実際に起こった事が信じられない。リアナとアスティアを除いたこの場に居る全員が同じ事を思う。

 生物とは老いるものであり、それに抗う事は過去の権力者達を見ても不可能な事は常識があれば理解している。

だが現実問題たった今アスティアとリアナが文字通り若返った。

 アスティアに関して言えば魔族の寿命から考えればまだ見た目に言い訳は出来るだろう。

 魔族の中には実際の年齢からは想像も出来ない程若々しい者も居る。それはいい。それは飲み込める。

 しかしリアナの場合は見た目に手を入れるとかそういう問題ではない。

人族の平均寿命間近の年齢であり、その見た目も完全にお婆さんと言って差しさわり無い風貌だった。


「散々言っておいただろう?気を抜けば死ぬほど痛いと」

「だからって想像以上だったぞ!?バーサンのアタシを殺しておにいとよろしくやるつもりだったんだろ!この合法ロリが!」

「誰が合法ロリだ痴女!若返らせてやったんだからまずは感謝したらどうだ!?」

「あぁん!?その無駄にでかい両乳捥いでやろうか!!?」

「やってみろ絶壁!!最後の望みの突起を抉って真っ平にしてやる!」

「上等だコラァ!なんなら今スグにでも―――おん?」

「どうした絶壁?怖じ気付いたか?」

「いや……なんだこれ?なんか頭ん中で思ってる感じと身体が今一ズレてるっつぅか……」

「それはそうだろう。今まで猫を被っていたとは言え老いたリアナも間違いなくリアナだったんだ。私の魔法をナメるなよ?筋肉から骨、果ては細胞や神経まで見た目通りの年齢まで戻したんだ。直前まで70手前だったのだから違和感は感じて当たり前だ」

「っかぁ~~!そんでお前はそういったデメリットも無しってかい?おにいも言ってたけどマジで反則だよなお前の魔法」

「私からすればそんな私の魔法を身体能力だけで搔い潜ってくるお前の方が反則だと思うがな」

「ハッ!おにいも言ってただろ?『どれだけ強力な技や魔法であっても当たらなければ問題無い』ってよ」

「それを体現できるお兄ちゃんとお前がおかしいんだよ……」

「へへへ…」

「ふふふ…」

「「あははははははははははははははは!!!!」」


 誰も入り込む事の出来ない二人の会話。何を言っているのか理解も出来ず、何が目的なのかも知りえない。だが唯一わかる事が一つ。

 二人がとても楽しそうな事。口汚く言い争いをするのも互いを信頼しているからこそであると。この場に居る者達は理解できた。


「はぁ~あ。なるほどな。アタシの脳細胞までもが若返ったから自然と当時の口調に戻ったって訳か」

「そうだ。その代わりお前がこの50年で鍛えた肉体も以前に戻ってしまっているがな」

「でも一番重要なモンは残ってる」

「あぁ」

「「効率化の知識と技術は消えることはない」」

「ははっ。それが残ってるんなら50年前よりもつえぇじゃんアタシ」

「言えてるな。だが今の状態では万全とは言えないだろう。自分でも言っていた通り頭と身体に齟齬が生じているからな。暫くは気ままに旅でもするか」

「え?すぐにおにいを探さないのか?」

「流石に今すぐって訳にはいかないだろう。どうしたって時間が必要だ。それくらいわからんのか?」

「んあ~……それもそうか。それにおにいはカイルとマディラとの約束もあるわけだしなぁ」


 完全に置いてけぼりを食らっていた周囲だが、リアナのその一言にハッとなったアランが声を上げる。


「待てリアナ!魔王様と勇者との約束とはなんだ!?我々はそのような事を何も聞いていないぞ!それにお前たちが言っている”兄”とは誰の事だ!?」


 その質問に倒れ伏している面々もハッとなる。確かに自分たちにも共有されていない内容である事に気が付き、二人に目を向ける。


「ん~……まぁ長い付き合いだしちょっとなら良いよなアスティア?」

「お兄ちゃんからはこの後は好きにして良いと言われているし話せる事なら話してやろう。時間も稼げるしな」

「んじゃあ少しだけな。まずカイルとマディラとの約束だけど、これは言えねぇ。諦めてくれ」

「なっ!?」

「んで次だな。おにいってのはアタシとアスティアの謂わば師匠って人だな。人魔大戦の時にアタシ達の命を救ってくれて更には色々な知識を与えてくれてついでに鍛えてくれた恩人さ」


 伝説の英雄と言われる人物を救い、尚且つ鍛えた者が居る。世界中の誰も知らない事実がこんなところで顔を出す。だがこれはまだ氷山の一角に過ぎない。


「ど、どういう事だ!?そんな報告は受けていないぞ!」

「それは当然。何故ならお兄ちゃんが『俺の事は此処に居る奴だけの秘密にして欲しい』って言ったからな。私達が裏切る訳がない」

「なん…だって?」

「アタシ達がこの世で唯一尊敬してるのがおにいって事だ。あ、ついでに勘の良い奴ならもう気づいてると思うしこれも言っちゃうか」

「何を…」

「よーく聴けよ会場にいる有象無象共!!教科書にも載ってない特大情報だ!各地の学園の連中も映像魔道具で見てるか!?耳の穴かっぽじって準備はOK!?」


 それぞれの位置に取り付けられている定点魔道具を指さし、テンション高く叫ぶリアナ。


「お前らがよ~く知ってる勇者の名前はカイル!魔王はマディラってんだ!」

「「「「なっ!?(ひゃっ!?)」」」」

「おまけの追加情報!勇者パーティって一々長いし言い辛くねぇか?正式名称は”希望ホープ勇者達ブレイブズ”って言うんだ!だっせぇよなぁ!アハハハハハ!!!!」

「お前…一体何を!?気でも狂ったか!!」

「私からもオマケをくれてやろう。カイルとマディラは私達と同じ人物を師と仰いだ謂わば同門であり、先に教えを請うたのは私達!つまり勇者と魔王は私たちの弟弟子という事だ!」

「「「「「「「「「「「「ええええええええええぇぇぇえぇええぇぇぇぇ(ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇえ!!!!!!????!?!!???)!!!!!!????!?!!???」」」」」」」」」」」」


 この情報が世界に漏れる迄そう時間はかからないだろう。世界中で本人たちしか知りえなかった情報の暴露。

 人魔大戦から50年もの間隠し続けてきた事をこの場でぶちまけた二人には勿論理由があった。これは前々から話し合い、吐露する情報とそうしてはいけない物とをしっかり分けた上での事だった。全ては今、この時の時間稼ぎの為。誰一人としてジンを追うという考えを持たせない様、それ以上の爆弾を投下する。

 そもそも二人からすれば特段隠す事でもない。”兄”と慕う人物から頼まれたからそれに従っていただけなのだ。

 しかしその鎖も最早解かれた。ジンをキャニオン王国から逃がす。今の二人の目的はただそれだけなのだから。


「あはははは!!それも言っちゃうのかよアスティア!大盤振る舞いじゃねぇか!」

「お前も目的は同じだろう?そら。次だ」

「オッケー!んじゃあ次もビックリドッキリ新情報だ!」


 非常に楽しそうに歴史の裏側ともいえる情報を次々と暴露していく二人に、最早英雄達といえども処理が追い付いていかず驚いた表情のまま唖然としている。

 だからこそ畳みかける。兄から教わった効率的な考えで。


「勇者カイルと魔王マディラはな、実はまだ全然元気に生きてんだ!なんならさっきまで此処にいたぜ!!」


 まさに世界がひっくり返る情報がリアナの口から飛び出る。……が、リアナが想像していたような反応は無く、唯々シーンとした空気が会場に立ち込める。


「…ありゃ?なんでこれでビックリしないんだ?」

「あたりまえだろ無乳!死んだとされている声も姿も見えない奴が生きて此処に居ただなんて言葉を誰が信じる!?唯でさえキャパオーバーしかけているボンクラ共にそんな事言ってもこうなるに決まってるだろうが!若返って知能まで退化したのか!?」

「誰が無乳だクルァ!あるわ!ささやかで可愛らしい自慢の双丘じゃい!お前みたいに無駄にデカかったら色々邪魔になるだけだろがい!」

「羨ましいのか?いやぁ~これも視線を集めてしまうし重たいし似合う服を探すのも一苦労だしで悪いことの方が多いぞ?あっ、すまんすまん。お前には共感してもらえない悩みだったな」

「殺す!!!!!!」

「やってみろ洗濯板!!!」


 仲の良かった雰囲気はどこへやら。気が付くと即座に喧嘩態勢に移行する二人に周囲は完全に置いて行かれていた。

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