第23話 ジンの凄さ
リリナと二人並んで歩く。いよいよ二戦目。今迄の戦いとリリナの性格等を考えながら構築した内容が通るか否か、通れば勝ちだが、それすなわち通らなければ負けがほぼ確定する。決定的勝利の為に必要な三つのピースを念頭に置いて挑もう。
「ねぇねぇジン」
「ん?何リリナ?」
目前に迫った模擬戦に向けて集中力を高めていた僕にリリナが話しかけてくる。
「さっきのアストルとの試合さ、あれ本気だった?」
「それは勿論。主席相手に手を抜ける程僕は強くないよ」
「そっか。じゃあシュンに戦い方を教えたのもジンだよね?」
「うん。映像では最初以外砂煙で何も見えなかったけど、そうしたって事はシュンは実行したんでしょ?トドメのウィップバッシュ」
そう。観客席に居た者達がその戦闘内容をほぼ確認出来ていない。砂煙が晴れた時残っていたのはリリナだという事実しか把握していないのだ。それは映像で見ていた控え室の三年生達も同じだ。だからこそ確信を持って言える。シュンは僕の言った事を実行したのだと。
「うん。あれは本当に吃驚したよ。完全に見切った距離をあんな方法で詰めるなんてさ」
「僕が鞭術のみでリリナと戦うとしたらどうするかを考えてそれをそのまま伝えただけだよ」
「・・・一つ質問してもいい?」
明るいトーンから一転、あまり聞かないリリナの
「僕に答えられることなら」
「なんで最後の一撃をバッシュにしたの?もし鞭が壊れなければまだアタシに攻撃出来たかもしれないのに」
なるほど。至極真っ当な質問だ。確かに己の武器を手放す行為は愚行だ。それ一本で戦う物にとっては対抗手段を失う事に等しいのだから。だが、いや、だからこそのバッシュなんだよ。
「それは簡単な事だよ。あの時シュンがバッシュを使っていなかったらリリナはどうしてた?」
「え?そりゃまぁ・・・、変わらず右手で受け止めるか流して近づいたと思うけど」
「だよね。だと思った。だからバッシュなんだよ」
「えぇ?どういうこと?」
「相手の右手に短剣が刺さるだけなのと、万が一でも相手に敗北の可能性のある一撃。自分が最後の手段で取る行動はリリナならどっちだい?」
「そりゃ勿論万がい・・ち―――」
綺麗に続いていた会話が途切れる。何かに気付いたリリナの顔が強張り、その目を此方に向ける。
「いや、でもおかしいよジン!その方法はアタシが鞭の間合いを見切った上で更に短剣をシュンに投げてなければ根底から崩れてるよ!?」
そう。この戦い方の肝はそこだ。一つの武器で戦う彼らにとって多数の武器を使うという考えは無い。師匠が言っていた平和故の毒だ。リリナが短剣を投擲していなければスタート地点にも立てない、薄氷を渡る戦術なのだ。
それを踏まえた上で僕はリリナに答えを返す。
「いや、わかってたよ」
「・・・え?」
「リリナが短剣を投擲する事も、鞭の間合いを完璧に把握する事も。更に言えば把握したからこそ短剣という武器のリーチを少しでも埋める為に間合いギリギリを保つ事もね」
笑顔で応える僕とは対照的にリリナの顔が青ざめていく。こんな表情のリリナは見たことが無い。行動を読み切られた事がそんなに恐ろしいのだろうか?
十年以上手合わせをしていれば人読みなんてそこそこの確率で出来る事だ。
「ジンは・・さ」
「うん?」
「ジンはアタシじゃなくて他の・・・、例えばアストルとかアイリスの行動も読めるの?」
「まぁある程度は。さっきの試合もアストルの性格から動きを読んで動いただけだよ」
「だけだよって・・・、それがそれだけ凄い事なのか理解してるの?」
「その事を凄いって言ってくれるのは嬉しいけど、それはそのままそっくり君達にも言えるからね?」
「ど、どういう事?」
「僕は全てに置いて上位互換が学園に存在する。力はアストルに到底敵わないし、スピードはリリナに追いつけない。マナの総量も魔法の威力もアイリスには到底及ばない。・・・だから主席が取れない」
話しつつ自身の現状を再確認し、拳を握る。その顔からは悔しさが込み上げているのが手に取るように伝わってきた。
「でも、でもさ!今言った通りジンの分析力?っていうのは凄いと思うよ!アタシはそういうのはサッパリだから」
「でも君は主席だ」
「それはそう・・だけど」
擁護してくる声に、つい当たる様な態度を取ってしまった。だが事実だ。実力不足の者に取って上位者からの慰めや同情は時に心をエグる。常に先頭を走ってきた彼女には、常に自由に振舞ってきた彼女にはわからない感情だろう。
そうして会話が途切れたタイミングで会場への分かれ道へ辿りついた。
「ねぇ・・ジン」
「何?」
恐る恐ると言った表情でリリナが僕を見る。
「アストルやアイリスがジンの事を『凄い』って言ってる様に、アタシもジンの事は凄いって思ってるよ」
「うん。ありがとう」
「さっきの人読みもそうだけどさ、それも込みでお願いしたいんだけどさ」
「うん」
「今はなんか変な感じになっちゃったけど、・・・・アタシとも、アストルみたいに本気で戦ってくれる?」
何を言うかと思えばリリナらしくない。そもそもこの戦いを望んだのはリリナだ。僕はそれに答えただけ。確かに本命はこのあとのグランだが、だからといってそれ以外で手を抜いて良い事にはならない。それに僕だって師匠にしごかれた成果を試したいんだ。
「勿論。もう頭の中でイメージはできてるしね。周りに何と言われても僕は僕の戦い方をしてリリナに勝つ!」
きっぱりと、そしてはっきりとリリナにそう告げる。
今迄一度も勝ったことのない相手に対して傲岸不遜もいいところだ。
だが僕はもう引かない。師匠に鍛えられた身体と心。そして教えてもらった効率化と云う考え方を武器にして僕は主席達に勝つ!
「そっか・・・。そっか!わかった!!じゃあアタシはジンの読み通りになんか動いてあげないもんね!最後の期末模擬戦もアタシの勝利で悔しがらせてやるんだから!」
「望むところさ!弱者の意地を見せてやる!」
パシンと手を叩き合い、僕等は分かれ道を進む。
イメージはした。戦い方は考えた。動き方も何通りも用意した。頭は冴えている。身体は火照っている。心は昂っている。準備は出来た。
「・・・お疲れ様です先生」
武器置き場に辿りついた。側には先程と同じ教師が立っているが、僕の挨拶に対して一つ舌打ちをしただけでそれ以上の干渉は無い。まぁ当然か。
そんな事を思いながら選んだ物を手に取り、会場に出て行く。
『先に出てきたのはジン先輩です!今度はどの様な戦い方をするのかわかりません!』
カレハのその一言しか会場には響かず、他の教師や生徒は苦々しい顔をしながらジンを睨みつける。
これも予想通り。何ら問題は無い。今は会場入りしてきたリリナとの戦いに集中だ。
『おぉ!リリナ先輩もいらっしゃいました!さぁさぁ!今回もそのとんでもないスピードで我々を驚かせてくれるのでしょうか!?』
客席が一気に盛り上がる。美人で強くて人気もある主席様の登場だ。さもありなん。別段驚く事もない。
片や主席の人気者。片や次席の嫌われ者。どっちを応援するかなんて火を見るより明らかだ。
「色々言ったけどさ!兎に角今は最っ高の戦いをしようね!ジン!!」
「当然!後で文句言うなよ?アストルみたいに敗北を受け入れられるか!?」
模擬戦前の舌戦が始まる。形骸化している様なもので、唯の会話や挨拶で終わることも多々あるが、流石は
「冗談!始める前からアタシが負ける事を決め付けるなんてジンらしくないじゃん!?」
「負けたことの無い相手に負けるっていうのは漫画や小説でも燃えるシチュエーションだろ!?それを味わわせてやるって僕のサービス心だよ!」
客席からリリアへの声援が大きいので必然二人の声も大きくなる。ここでカレハが何かに気づき、声を荒らげる。
『んん?はぇ?え。えぇえええええええ!!!!??ジジジジジン先輩!?え?なんで!?なんで何も武器を持っていないんですかあああああ!!??』
マイクで拡声されている状態で大声を出すんだからそりゃうるさい。おかげで観客席からの声も鎮静し、会場に静寂が訪れる。
「・・・何それ。アタシには武器もいらないって事?流石に心外なんだけど」
「あぁいや、早合点しないで。武器はちゃんと持ってるよ。ほら」
そう言ってズボンのポケットに入れていた両手を広げて見せる。
『な、なんと!ジン先輩の今回の武器は手甲とナックルを持ち出してきました!でもこれは普通です!先程とんでもない戦い方をしたのに今度はバチバチの正攻法で来ました!!』
今回僕が選んだ武器は両手に付けたナックルと手首迄の長さの手甲だ。ちょっと握りにくいけどそこはご愛嬌。
「アタシ相手に今更近接戦を仕掛けるつもり?しかもその手甲短すぎない?」
「いやいや、これで良いんだ。これが最高」
「ふぅ~ん・・・。ま、ジンの事だから何か考えがあるんだろうけどさ」
「勿論。重さも少なく、攻撃力も防御力もあるのがこの組み合わせだからね」
『で、では準備は出来た様なので始めさせて頂きます!リリナ・カストル先輩対ジン先輩!試合開始です!!』
「何考えてるのかはわからないけど・・・全力で行くからね!!」
「手ぇ抜いたら絶交するからなリリナ!!我が身を強靭に!肉体強化!!!」
~~あとがき~~
お久しぶりです。作者のマスタースバルです。
し・・・死ぬ。年度末の仕事量舐めてました。完全に更新止まってしまって申し訳ありませんm(_ _)m
今月一杯地獄のパレードなので完全不定期更新です。行き来の電車内で意識を手放さなくてすんだらポチポチ書いてみます((꜆꜄ ˙꒳˙)꜆꜄꜆ポチポチポチポチポチポチポチポチ
毎度応援してくださる読者の方には申し訳ありませんが許してください(´;ω;`)
死なない程度に頑張りむぁす!(`・ω・´)
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