第15話 リアナとアスティア
いよいよ期末の模擬戦日がやってきた。夏休み前は模擬戦、冬休み前は学力テストがこの学園の決まりなので、それぞれの科目主席達はどちらか片方に全力を出すのが通例になっていた。
勉強の方でも僕は変わらず次席に甘んじている。やはり座学にしても実技にしても怠けない天才達に追いつくのはかなり厳しい。それに実技に関してはこれが最後の機会であるのも事実なので、否が応にも全員やる気が溢れている。
師匠達に扱かれ、文字通り日夜問わず動き続けた成果を出すべく強い足取りで模擬戦場に向かっていると、背後から声をかけられる。
「調子はどうですか?ジン君」
「うぇっ!?【リアナ】様!お、おはようございます!」
突然ジンに話しかけてきたのは勇者パーティの一人であるリアナ・ボディスだった。着古した淡い栗色のカーディガンを羽織り、肩にかかる位の銀髪が老齢とは思えない程綺麗に靡いている。
現役時代は獲物を選ばず戦場を駆け回ったとされ、二つ名は狂戦士リアナと呼ばれ多くの魔族から恐れられた。
だが現在の彼女にその面影は無く、柔和に笑う普通のお婆さんにしか見えない。
「そんなに固くならなくて良いと言っているでしょう。今の私はただのお婆ちゃんでしかないのですから」
「いえとんでもない!人魔大戦にてご活躍なされた勇者パーティと五天魔の皆様に粗相等働けません」
「本当に真面目ねぇ貴方。それでは生きにくいでしょうに」
「そうでもありませんよ。幸い良き友人にも恵まれましたし、最近では頼りになる師匠も出来ましたので」
「あら、ではそのお師匠様にご挨拶でもさせていただけないかしら?ジン君はとっても優秀ですからね。今後お偉いさんになるかもしれない子のお師匠様であれば私もお会いしておきたいわ」
「えっ!?僕にそんな評価恐縮です!ってリアナ様が直接!?・・・あ、いやでも生憎僕の師匠は人付き合いが苦手で表に出てこないんですよ」
「んん?ではどうやって教えてもらったり鍛えてもらったりしているの?」
「えぇっと・・・あの、その・・・あっ!そう!鍛錬方法が手紙に書かれて送られて来るんです!」
「でもそれでは効率が悪くないかしら?細かい箇所の修正も出来ないでしょうし」
「あ~・・・えと、それはですねぇ・・・」
物凄い質問攻めが来た。なんでリアナ様がこんなに興味引かれているんだろうか?
いやそんな事よりどう答えるのが正解なんだこれ!?嘘に嘘重ねちゃって引き返せない所まで来ちゃってるし・・・。ってか咄嗟の事とはいえリアナ様に嘘ついちゃったよどうしよう!!?
「何をしているリアナ。そろそろ会場に入れ」
混乱しているジンにとっては天使か悪魔か、現れた人物はアスティアだった。
「あら、もうそんな時間なの」
「ア、アスティア様!?おはようございます!」
「あぁ・・・おはようジン」
「うひぃっ・・・」
アスティアが睨みつける様にジンを見る。何故か学園に入学した当初からジンはアスティアに好かれていなかった。必要最低限の会話しかせず、常に冷たい対応しかされてこなかったジンはすっかりアスティアに対して苦手意識を抱いてしまっていた。
「あらまあアスティア、ジン君をそんな睨めつけちゃ駄目よ。何も悪い事なんてしていないのに。ねぇ?ジン君」
「うっ、あ、いやその・・・まぁ」
「成績優秀であっても常におどおどしているその態度が気に食わんのだ。全ての科目で次席を取り続けている事は評価するが、自分より上の成績保持者がこのような男では下の連中はどんな気持ちなのか考えるだけで可哀想だ」
「うぅ・・すみません」
「人の性格なんて十人十色なのだから気にしなくて良いのよジン君。アスティアももう少し言い方を考えなさい」
「ハハッ!お前が言うと説得力が凄いなリアナ。今のお前を昔のリアナが見たらなんと言うか」
「・・・まぁ間違いなく『このバーサンがアタシ!?ふざけんな!アタシは絶対にこんなバーサンにはならねぇぞ!』って言うと思うわ」
「私も同意見だ。あの頃のお前は全ての魔族の息の根を止めようとしていたからな」
「最初の頃はね。でも考えは変わるものよアスティア。わかるでしょう?」
「・・・いつまでそこでつっ立っているジン。さっさと模擬戦場へ行け」
「は、はいっ!失礼します!」
突如ターゲットが僕に移り、滅茶苦茶怖い顔で睨んできたアスティア様。僕は一目散に模擬戦場へ逃げた。
「それで?お前はどう思うリアナ」
「そうねぇ・・・。当然確信は得られていないけど、まぁ三割ってところかしら」
「三割!?何かそう思える情報を得たというのか!?」
「さっきジン君が気になる事を言っていたのよ。『頼りになる師匠も出来ました』ってね」
「っ!・・・その師匠の名前は?」
「それを聞き出そうとしていた所にアスティアが来たのよ。タイミング最悪」
「ぐっ・・・それはすまなかった」
「だから三割。名前を聞けたら確信を得られたのにねぇ」
「だからすまんと言っている!」
「アハハハ!まぁジン君が違ったら私はもう諦めるわ。あれだけ戦争で身体を酷使したのに平均寿命間近まで生きられたのだって奇跡みたいなものだし」
「馬鹿を言うなリアナ!例の魔法はもういつでも発動できるのだぞ!例え今回が駄目でも」
「駄目よアスティア。あの魔法は私達があの頃の姿で勇者様に会う為の魔法でしょう?一度しか使えないのであれば、もし再会できたとしても私がまたお婆ちゃんになっていたら意味ないの。何度も言ったでしょ?」
「だがリアナ!」
「大丈夫よアスティア。私達の勇者様は『また必ず会える。その時は一緒に世界を回ろう。ずっと一緒に居よう』って言ってくれたでしょ?違ったら諦めるとは言ったけど今はまだ諦めてないわ。勇者様は・・・、私達を救ってくれた勇者様は、絶対に私達にだけは嘘をつかないって信じているもの」
「そう・・だな。そうだったな」
瞳に涙を浮かべながらアスティアは空を仰ぐ。拳を強く握り、切実に思いを馳せる。
そうであれと。そうであってほしいと。
「じゃあ行きましょうか。生徒たちの勇姿を見届けにね」
笑顔でそう言い手を伸ばすリアナの瞳もまた、晴天の日に照らされ光っているのをアスティアは見逃さなかった。
「あぁ。行こうか」
そうして二人は教員専用出入り口へ向かう。己の人生の目標を達する為、心の底から会いたいと願う彼女達の勇者と再び再会する為。彼女達は並び歩く。夢が叶うその時を信じて。
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