第14話 地獄の一週間
「おわああああああ!!」
あれから家に帰り、家事をこなしてラダートレーニングを終わらせ、汗を流して就寝した。いつもより心も体も疲れていたので驚く程すんなりと入眠できたのだが、気づいたら僕の夢の世界とやらであるあの白い空間に立っていた。
そんな僕を見つけて声をかけてきたカイル師匠が挨拶代わりに飛斬を放ってきたので、なんとか避けたんだ。
「おぉ~。よくよけられたな坊主」
「いきなり何するんですかカイル師匠!」
「そりゃあ坊主が今後どんな戦いにおいても不意打ちなんざ喰らわない様にと思って」
「そもそも僕の周りに不意打ちなんか仕掛けてくる人なんて一人もいないですよ!僕の事を気に入らないって奴でも戦う時は正々堂々正面から来ますもん」
「あ~・・・っまぁ今はそうでもよ、これからは分かんねぇじゃねぇか。もしかしたら盗賊とかと戦うかもしれねぇんだし」
「そもそも己の命を狙われる状況において卑怯も何も無いぞ小僧。そういった場面であるのは勝ちか敗けか、生きるか死ぬかしかないのだ」
「う~・・・はぃ、師匠」
「今すぐに呑み込めと言っている訳では無い。だがここぞという時に甘い考えでは他者にも迷惑をかける事もあると云う事だけは心に留めておけ」
マディラ師匠が僕の頭に手を乗せながら真剣な眼差しで告げる。そんなマディラ師匠の後ろに居るカイル師匠が、何故か悔しそうな顔をしているのが目に入った。
恐らく人魔大戦時にあった事を思い出してるのだろう。触れるべき話題では無いと思う。
「さて小僧。それでは答えを聞かせてもらおうか?」
「へ?なんのですか?」
「昼間に我と模擬戦をしたであろう。その時に『では問を投げかけよう』と言った筈だが?」
あ、あ~あ~!確かに言ってた!言ってたけどさぁ・・・。
「あの、マディラ師匠?」
「うん?」
「その・・、確かにそう言われた事は覚えているのですが、そもそもその”問”って奴を何も聞かされていないのですが」
「・・・ハッ!」
「確かに!」みたいな感じで手を叩くマディラ師匠。横でカイル師匠が大笑いしてる。さっきまでの触れられない表情は何処に消し飛んだんだ・・・。
「いやすまん小僧。興が乗ってしまい確かに言ってなかったな。ではまず聞こう。昼間の模擬戦で何か気付いた事はあるか?」
「ボッコボコにされた事しか覚えていません」
「いやそうではなく!現状小僧が我らに勝てぬのはわかっておるわ!戦ってみて感じたことはないか?と問うている」
「感じた事ぉ~?」
思い返してみるが、手も足も出なかったとしか言えない。
カイル師匠との戦いでは飛斬の連撃に対してロックシールドからの特攻を仕掛けたが、獣王烈爪で体勢を崩された所を捕まり煉獄握で殺された。
マディラ師匠の時は不意打ちのパンチを軽く受け止められてからぶん投げられて、フレアバーストからの・・・、からの?
「あれ?そういえば僕がマディラ師匠に負けた時ってどうやって負けたんでしたっけ?」
「おぉ!」
「良かったぁ~!理解ゼロだったら俺の戦い方の意味無くなるとこだったぜ」
心底安堵したようにカイル師匠が息を吐く。なんかさっきから百面相してるなぁ。
でもなんでカイル師匠がそんな安堵してるんだろう?・・・あれ?
「カイル師匠」
「あん?」
「なんで僕と模擬戦している時は全て技名を言っていたんですか?」
「おぉ!」
「その違和感が正解ぞ小僧!」
「えぇ?」
「実戦で感じさせるのが一番と思ってな。技名言う度ムズムズしてたんだけど甲斐があった様で何よりだ」
「小僧。我とカイルとの模擬戦で何か思う所はないか?」
質問責めだ。二人共やたらテンション高いしなんなんだろうか。
さて、ボコボコにされた事以外何か思う所か・・・。
「強いて言うなら、手加減されていたとはいえカイル師匠のあの飛斬の嵐をよく回避できたなぁって思いますね。あとやっぱりマディラ師匠にやられた魔法がさっぱりわからないのが引っかかります」
我ながらよくあの攻撃をくぐり抜けられたものだと思う。まぁ飛斬に関してはアストルも馬鹿みたいに撃ってくるからなんとなく軌道がわかるってのも大きいけどさ。
でもカイル師匠がちょっと本気で撃ったら感じるまでもなくたたっ切られるんだろうけど・・・。
「これはもう答えみたいなもんじゃねぇか?」
「そうだな。では小僧。この一週間の最初で最後の座学だ」
「え?あ、はい!」
「今回の模擬戦では、あえてカイルには全ての技名を言ってもらっていた」
「はい。戦っている時は必死でなんとも思わなかったんですけど、今考えるとおかしいとは思います」
あれだけ「恥ずかしい」って言っていたのに変な戦い方はしていなかった。性能が化け物過ぎるけど、確かに僕の知っている当たり前の戦い方だった。
「そして我も最後以外は詠唱も行い真っ当に戦っていた」
「なんか遠くに居る僕にも聞こえる位大きな声で詠唱してましたよね師匠」
「そう。そして最後は
「瞬雷って聞いた事無い魔法なんですけど・・・。あれ?でもその時師匠が詠唱していたのはフレアバーストだった筈ですよね?」
これは覚えている。フレアバーストの数を増やされては堪らないと思って走ったら意識が消えたんだ。
「左様。さて、答えはもう言ったも同然なのだがわかるか?」
「う~ん・・・。最後はその瞬雷って云う魔法を効率化して撃ったって事しかわからないです」
「それもまぁ答えであるが・・・。まぁ良い。ここで重要なのは、技名の発声によって相手に有利に働いてしまう点だ」
「ま~た遠まわしな言い方しやがって」
「む?そ、そうか?」
僕が難しそうな顔をしていると、横からカイル師匠の助け舟が入る。
「良いか坊主。とりあえず現状ではどんな手を使っても俺らに勝てないってのは理解してるな?」
「それはもう!」
あれだけやられたんだ。嫌でも理解していますとも。
「じゃあなんで手加減していたとはいえ俺の飛斬をあれだけ避けたり対処出来たんだ?少なくともお前の友達とかいう奴よりは早くしたつもりだぜ?途中の獣王烈爪もそうだ。なんで回避出来た?」
言われてみれば確かに。いくら飛斬を見慣れていたと言っても、カイル師匠のはアストルの倍は早かった。それに獣王烈爪の時はロックシールドで視界が塞がれて――
「・・・よけられたのは、カイル師匠が技を出す時に技名を言ってくれたからです」
「ほう?」
「飛斬に関しては速度や威力は違えど、見慣れていた技である事が大きな要因です。だけど獣王烈爪の時はロックシールドの所為で僕も前が見えていなかった。本来であればそこで決着はついていました」
「そうだな」
「そしてマディラ師匠の時、何故やられたのかわからないのは明白です。まぁそもそも僕が瞬雷っていう魔法を知らないってのは置いておいて、効率化された技や魔法は鍵となる言葉を発すれば発動する。つまりマディラ師匠はフレアバーストの詠唱中に瞬雷を発動した。という事は僕の意識が途切れる直前に聞こえた『ハァッ』という言葉が瞬雷の鍵になっていたんじゃないかと思います」
「それでそれで?」
「これらの要素を集めて愚考しますと、僕がカイル師匠の攻撃を多少なりともいなせたのは次に来る技がわかっていたからです。だからマディラ師匠の時も結局僕の知っている魔法であっても最後は喰らっていたと思います」
「「つまり?」」
「・・・この効率化の根本となるものは、詠唱や技名の発声を省略する事では無く、相手に此方の出方を知らせない事の重要性を突き詰めた結果であると僕は思いました」
「「合格!!」」
良かった。考えは正しかったみたいだ。でもこれ公の場でやったら
「よくぞ答えに辿りついた小僧!それこそ我らが辿りついた効率化よ!」
「まぁ坊主がこれを学ぶのは一週間後にはなるがな」
「えっ!?そうなんですか?」
「あのガキに勝つためには今やっている事をトコトンやらねぇと時間が足りねぇからな。他の事に目を向ける余裕は無い」
「逆に考えるのだ小僧。あのガキに勝利しさえすればこの方法を学べるとな」
現状の気持ちだとまだそこまで覚えたいって気持ちは薄いんだけど・・・、言えないよなぁそんな事。だってマディラ師匠すんごい笑顔なんだもの。
「そ、そうデスネ。ガンバリマス」
取り繕い切れなかった。動揺からか声が裏返ってしまった。幸い喜んでる師匠の耳には入らなかったみたいだけど。
「っと、ところで坊主。ラダートレーニングだがな、上半身が動き過ぎだ。理想としては動かさない方が良い」
「うぇえ!?全力で動いてるのにですか!??」
「そうだ。これは体幹を鍛える事も同時にやってるからな。腿を膝が前に向く位まで上げつつ全力で動いて身体を揺らすな。それに見てて気持ち悪ぃ」
「イヤイヤ!そんな無茶な!」
「おぉい貴様ら!朝までもう5時間を切っているのだぞ!さっさと模擬戦を再開するのだ!」
こうして起きている間は学業に家の手伝い、狭間にラダートレーニング。夜は朝まで夢の世界で化けも・・・師匠達と模擬戦を繰り返す日々が始まった。
二日後にはリリナやアイリスに「大丈夫?」と言われる位には死んだ目をしていたらしい。毎晩何百回も殺される感覚を味わえばそうもなるだろう。
五日後には死ぬ事に完全に慣れた。もうパンチで頭が吹き飛ぼうが魔法で弾け飛ぼうがなんとも思わなくなった。痛みが無いと云うのも便利なものだ。
希にではあるが、何回かカイル師匠の頭部破壊パンチを薄皮一枚で避けられたりもした。まだまだ手加減されているが、僕と一緒になって喜んでくれて嬉しかった。
あ、勿論アストルにはしっかりワンツーからのアッパーをお見舞いしたよ。流石に謝られた。
そしていよいよ明日が夏休み前の模擬戦日。この一週間の成果を出す為、僕は早めに就寝して備える事にした。
「よぉし!んじゃあ明日に向けて模擬戦すっか坊主!」
「早めの就寝とは素晴らしい!今宵は9時間は出来るな!」
鬼が二人待っていた。まさか本番前日すらゆっくりさせてくれないとは・・・
「前日位休ませて下さいよ師匠!!うおぉらああああああああ!!!!」
さぁ、このふざけた修行の鬱憤を全部ぶつけてやるから待ってろよグラン!!
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