第11話 VSマディラ師匠

 ハッと意識を取り戻すと同時に身体が崩れ落ちた。強かに顔面を地面に打ち付ける。


「痛っ!・・・くない?」

「そらそうだ。言っただろ?この世界には痛みも怪我も病気も死も無いってよ」

「カイル師匠・・」


 見上げると微笑ましそうな表情のカイル師匠が立っていた。

そういえばそんな事を言っていたなとぼんやり思った所で一つ疑問が生まれる。


「この世界で死んじまうと数秒後に復活するんだが、なんでだか直立状態なんだよ。慣れる迄は坊主も転げまくるだろうからさっさと慣れろよ」

「いや、それもそうですけど師匠。痛みが無いって言ってましたけど、最後に煉獄握でやられた時確かに首が物凄く熱かったんですが・・・」

「そりゃ思い込みだ。坊主は煉・・獄握がどんな技だったか知ってたから本来はない熱さを感じたんだろうな」


 煉獄握という言葉を恥ずかしそうにしながら口にするカイル師匠が、先程僕が感じた熱さを思い込みだと言う。


「思い込みって・・、でも僕は確かに首に燃える様な熱さを感じた瞬間意識が飛びました。とてもではないですがあれが思い込みとは思えません」

「そう思っている事が既に思い込んでる証拠だ坊主。人ってのは思い込みで体調が悪くなるし本当に死んじまう事もあるんだぜ?」

「死ぬってそんな馬鹿な」

「いやぁ?あながちそんな事もないんだがなぁ。それに今顔から崩れ落ちた時痛みは無かっただろ?」

「それはそうですけど・・・、でも思っただけでそんな事が出来るなんてそれこそ奇跡じゃないですか」

「・・・もう良いか?マディラ」

「うむ。流石にこれで気が付くだろう。小僧、己の背を見てみろ」

「へ?」


 カイル師匠が僕の後ろに居るマディラ師匠に声をかける。

僕はマディラ師匠が言った通り自分の背中を覗くと・・・。


「おわあああああああ!燃えてる燃えてます燃えてんだけどぉおおおお!!!」


 僕の背中が大炎上していた。確実に大火傷してしまう勢いで。


「我が火を付けた。ほれ小僧。熱くないだろう?」

「うわあああああ死ぬううううう!!」

「本当に突発的状況に弱いなこやつは」

「命を司る水よ我が身を癒したま」

「うおっと。魔法は使わせねぇぞ」

「ゥモエッ!?フォーファーヒーフゥゥゥゥ!!!!ハインひひょぉおぉおおお!!!!」

「カッカッカ!そら思い込め!!確かに背中は燃えてるが熱かないぞ坊主!思い込め!この世界ではその熱さは感じない!」

「へはははほへうぅぅぅ!!!!!」

「確かに背中は燃えとるが熱さは無いぞ小僧。落ち着け」


 落ち着けるか!!ウォーターヒールで鎮火しつつ火傷を癒そうとするが、途中でカイル師匠に手で口を塞がれてしまい魔法が発動しなかった。


 ジンの後ろから羽交い絞めにしているカイルは笑いながらジンに声をかけ続ける。

流石は人間最強と迄云われた勇者。ジンも全力で暴れるが、抜け出せる気配は微塵も無かった。


「フガァァアアアア!!ハハヘエェエエェエエ!!!!」

「離すわけねぇだろ坊主!そら熱くなーい熱くなーい。カッカッカ!」

「そろそろ良いか?」

「あぁ。十分楽しんだわ」

「小僧!小僧!!よく聞け!貴様の口を塞いでいる手をよく見てみろ!」

「ファヒハひひょう!?」

「口を塞いでいる手を見てみぃ!」


 僕より大きな声を出すマディラ師匠の言葉に、つい反射的に自分の口を見やる。

ゴワアァアアアアア!!という音を出しながら真っ赤に燃えているカイル師匠の手が僕の口を塞いでいる。

 ・・・え?これって煉獄握じゃない?なんで僕の口を塞いでる手で発動させてんの?前後両方から僕を焼き殺す気なの?


 信じられない光景を目の当たりにしてジンはピタッと動きを止め、カイルの燃え盛る手を見ながらフリーズする。


「どうだ小僧!!?」


 そう叫ぶマディラ師匠の声にビクッと反応し、意識が全てカイル師匠の手に集中する。背中の事も忘れて。


「あふ・・ふはい」

「落ち着いたか?坊主」

「多少聞いてはいたが育成とは手が掛かるものだな」


 熱くない。確かに僕の口を塞ぐ手は燃えに燃えている。だが熱さは感じなかった。


「まだ背中も燃えてるけどそっちはどうだ?」

「ふぁいふぉうふへふ」

「良し!」


 促され、再び燃える背中に意識を向ける。しかし先程迄感じていた熱さは微塵も感じなかった。

 そして僕の言葉を聞いたカイル師匠が漸く僕の口を開放してくれた。


「どうだ坊主。思い込みを実感した気分は」

「・・・不思議です。未だに背中は燃えているのに全然熱さを感じません」

「それがこの世界の当たり前だ」


 ニカッと笑いながら僕の背中をパンパン叩き消化してくれるカイル師匠。あまりに現実離れしている光景と状況を少しずつ受け入れながら応答する。



「これを受け入れられんとまともに修行をつけてやれんからな。だが勘違いだけはするな小僧。これは此処だけの当たり前だ。現実にはこの考えを持ち込むでないぞ?」

「死にたくなけりゃな」

「はい・・・。もうなんか色々ありすぎて訳がわからなくなってますがそれは理解しています」

「ならば良し」

「じゃあ次はマディラとだぞ坊主」

「ハッ!?」

「カイルが終わったら次は我なのは当然だろう」


 完全に忘れていた。伝説との模擬戦の後は伝説との模擬戦だと云う事を。


「さて、カイルが意外とノリノリで相手をしておったが、我との模擬戦にて最初の効率化の授業の答えを見付けよ小僧」

「余計な事言うなコラ!今更あんな戦い方して小っ恥ずかしかったんだからな!」

「任せておけカイル。貴様の羞恥心分は我が働こう」

「うるせぇっての!」


 とはいえ僕もそこまで馬鹿ではない。いい加減この師匠達は自分の言った事を間違いなく実行する位の事は理解している。


「我が身を強靭に、肉体強化」


 初手から何も出来ないまま終わる訳にはいかないと思い、先に肉体強化で身体能力を上げておく。


「おぉ。俺との模擬戦で学んだか。優秀な弟子だこと」

「では行くか。忘れるなよ小僧。これは模擬戦ではあるが貴様の修行も兼ね」

「おりゃああ!!」


 先手必勝。何か魔法を使われる前に距離を詰めなければ為す術が無い僕は全力で詰め寄り、パンチを放つ。

 自慢じゃないが、肉体強化を使っている僕のパンチは土の地面に手首までめり込む位の威力がある。


「うむ。相手の出方を待つのではなく己の得意な土俵に引きずり込もうとするその思考は良いぞ」


 パシッと片手で受け止められた。そういえばとんでもない魔法ばかりみていたからすっかり忘れていたけど、この方肉弾戦でも魔族最強なんだった。


「ではヒントも込みで行くぞ小僧」

「うわぁっ!?」


 受け止められ動かす事が出来ない僕の拳を掴んだまま、マディラ師匠がひょいっと腕を振るとそのままブッ飛ぶ僕。

 腕を軽く振っただけなのにかなり遠くに飛ばされた僕は着地と同時に走り出す。


「小僧がよく知る魔法で良いか。――荒ぶる原初の炎よ!その大いなる猛りを現世に現せ!我が身に宿るマナを触媒とし!今!ここに!猛威を奮え!フレアバースト!!」

「マズイ!」


 マディラ師匠が遠く離れた僕にも聞こえる大声で詠唱を終える。

それと同時に現れる数十個のホーミング死の玉。だがアイリスの物とは大きさが全く違う。一つ一つがデカすぎる。


「命を司る水よ!固まり個となりて敵を砕け!スプラッシュアロー!」

「よそ見はいかんな小僧」

「なんゴッ!!?」


 マディラ師匠に向けて走りながら詠唱し、ホーミング死の玉へ魔法を放つ。

しかし僕の意識が上に向いていた瞬間にマディラ師匠がいつの間にか目の前に来ており、僕の左頬に綺麗なフックが当たり吹き飛ぶ。


「くそっ!」


 飛ばされた勢いのまま後転を繰り返し、なんとか立ち上がる。痛みを感じないと理解してしまえばどんなに恐ろしい攻撃も耐えられる。


「では問を投げかけよう。荒ぶる原初の炎よ、その大いなる猛りを現世に現せ」

「させるか!」


 再び詠唱を始めるマディラ師匠。手加減をしてくれているらしく、上空のホーミング死の玉は僕の知っている常識のスピードで落ちてきているが、これ以上増やされては堪らないと詰め寄る。


「我が身に宿るマナをハァッ!」


 詠唱していたマディラが近づいてくるジンを見てニヤリと笑う。直後マディラは詠唱の途中で唐突に叫び、ジンの身体に稲妻が落ちた。轟音と共に痛みを感じる事も無く、悲鳴を上げる隙も無くジンは消滅した。




             ~~あとがき~~


読者の皆様。まだまだ投稿を始めてから日が浅く、内容も拙い拙作を読んで下さり誠にありがとうございます。作者のマスタースバルと申します。


日増しにPV数も伸びて来ており、モチベーションに繋がっております。


さて、私事ではございますが、1月2日を除き投稿日から基本毎日連載を続けてまいりましたが、1月9日より仕事の冬休みが明け始業日となる都合上、毎日投稿は恐らく1月8日で止まってしまうと思います(上手く時間を作る事が出来れば投稿いたします)。


なので始業日以降は基本週2~3回投稿になると思いますが、このまま三人の物語を一緒に追って頂ければ幸いです。


これからも【万年二位のオールラウンダー~勇者と魔王の英才教育~卑怯?効率化だ!】を何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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