第10話 VSカイル師匠
カイル師匠が迫ってくる。伝説の人物にして歴史上最強と評される二人の内の一人が剣を構え笑いながら。この恐怖をどう伝えれば良いのか僕にはわからない。
「行くぞ坊主!飛斬だぁ!」
「うわああああああああ!!」
猛烈な勢いで襲い来るカイル師匠の飛斬。見慣れたアストルの飛斬と比べて数倍の速度で射出されたそれは、僕の頬を掠めて後方へ飛んでいった。
「おいこら坊主!模擬戦だっつってんだろうがコラ!ビビって身体縮こめてんじゃねぇ!」
「無茶言わないでくださいよ師匠!なんの前触れも無く襲いかかってきた挙句に見た事もない様な速度の飛斬を打たれて反応出来る訳ないじゃないですか!」
あまりに唐突な攻撃と、先程目撃した戦いが色濃く脳内にこびり付いていた所為か、カイル師匠の放った飛斬に対して僕の身体は反射的に縮こまり、防御の姿勢を取っていた。
「阿呆か!さっきも似たような事言ったけど、一度外に出たらそこからは常に襲われるかもしれないっつー気持ちでいろ!いつ戦闘になっても対応出来る様にしておかなきゃ生き残れないぞ坊主!!」
「そんな事言われても・・・。それに勇者様と呼ばれる師匠が不意打ちなんて卑怯な事してくるなんて思わなかったですし・・」
「これから俺らが坊主に叩き込む修行内容は殆どがそういったモンだ。俺らが教えるのは強くなる方法じゃねぇ。どんな状況でも勝てる様にする方法だ。その結果坊主は強くなるだろうが過程は一切曲げるつもりはねぇ。まずは坊主を一週間後の模擬戦であのいけ好かねぇ貴族野郎に勝てるようにする事が俺らの第一の修行だ」
思わぬ激が飛んできた。グランに勝てる様になる修行?一週間で?僕がこの12年間どれだけ努力しても一度たりとも勝つ事の出来なかったあのグランに勝てる?
師匠。その一言は僕を燃えさせるには十分過ぎます!!
「・・・我が身を強靭に、肉体強化」
「初回だから一度だけ見逃してやる。次泣き言言ったら承知しねぇぞ坊主」
「寛大な処置ありがとうございます師匠・・・」
「もう良いか?」
「はい!」
「飛斬」
「うおぁっ!?」
会話の流れでさらっと飛斬を打ってきた!が、既の所でなんとか横っ飛びし回避する。
そのままカイル師匠は飛斬を連射してくる。
「当たったら死ぬと思え坊主!飛斬飛斬飛斬飛斬飛斬飛斬!!」
「こなくそぉおおおおおおお!!!」
こうなりゃもう自棄だ。出来る限りの事はしてやる。
視覚に映る絶えぬ斬撃をギリギリ回避しながらやれる事を始める。
「我が身を守れ!ロックシールド!」
「・・・これで最初の一歩は踏み出せたな坊主」
「おりゃああああああああ!!!」
このままではすぐに体力が尽きてやられてしまうと考え、僕は眼前に岩の盾を出現させ特攻した。
勿論勝てる等と思ってはいない。それでもこの状況での最適解はこれだと信じ、師匠に一発でも攻撃を当ててやろうと気合を入れ叫ぶ。
ギン!ガギン!と岩の盾が削られていく音を聞きながら、今迄一度も取った事の無い手段で詰め寄る。
「―――飛斬飛斬!
「なんっ!!?」
師匠の声が聞こえると同時にまた横っ飛びをすると、それまで僕の居た場所に五本の斬撃が過ぎていった。
獣王烈爪は拳聖オルドラ様の得意技。肉を引き裂くように鉤爪状にした腕を振り、飛斬の様に立てた指の軌跡をなぞった斬撃を飛ばす技。ロックシールド如き紙の様に引き裂ける程の威力を持っている。
五本の斬撃が過ぎていったという事は片手で飛斬を連射しつつもう片方の手で獣王烈爪を出したのか・・・。化け物だ。
「その横っ飛びは悪手だな坊主」
「あ・・・グッ!ゴッ・・カァァァ・・・ァ・・」
僕が回避した先に居たカイル師匠が僕の首を掴み、持ち上げる。まさかあんな大技を僕の誘導に使った?僕が避ける方向がわかっていたっていうのか?
全体重の重みと首を締め付けられる力により、まともに呼吸が出来ない中僕がそこまで思考した所で。
「そういえばまだだったから見せてやるよ坊主。出血大サービスだ」
「グァ・・・・カ・・・・ア゙ァ゙・・」
酸素が足りず、朦朧とし始めている耳にカイル師匠の声が聞こえた。
「煉獄握」
首元がとてつもなく熱い。燃えている様だ。
そう感じた瞬間僕の意識は途絶えた。
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