第5話 嘘しか言わない伝説の二人
規格外な二人の戦闘行為はおおよそ十数分で終わった。
僕が見ていた限り全くの互角と言っていい。
カイルさんは兎に角動きが凄い。ただのパンチで衝撃波が出るとは思わなかったし、間に挟んでいた魔法はとても人間が使えるものとは思えない威力と精度だった。
マディラさんの魔法は圧巻の一言で、僕が見たことも聞いたことも無い魔法がいくつもあった。それをあの凄まじい速度で動きながらバカスカ撃ちつつ結界による防御も並行して行っていた。
何より結界魔法というのは対象を指定してその周囲を覆うようにドーム状にして発動するものだ。
なのにマディラさんはカイルさんの躱せる攻撃を躱し、受け止めた上で種族的にどうしても追いつけない、捌けない攻撃の命中箇所にピンポイントで盾の様に出現させていた。まぁその結界をも素手で叩き割っていたカイルさんも恐ろしいが・・・。
動きも、魔法も、威力も、技術も、全てが僕の知らない次元にあった。
人間としての、魔族としての終着点であり頂点。完成された強さとは斯も美しいものであり、嫉妬心が湧くことも無く、僕は只々自然と拍手をしていた。
「だぁ~~~~!やっぱり死の概念が無い此処じゃそもそもの決着がつかねぇや!」
「もう何度同じようなやり取りをしてきた事か。外を見る以外の娯楽が無かったからな」
「でもそれも今日で終わりってこった」
「うむ。漸くあの時の約束を果たせる時が来たのだからな」
疲弊したのかカイルさんとマディラさんの二人はその場にどかりと座り込み会話を始めた。僕はかつてない高揚感に心拍数をあげながら二人を見やる。
色々聞きたいことがある。質問したいことがある。もっともっと違う動きを、魔法を見せて欲しいと思う。が、眼前で行われた戦いに興奮しきっていた僕は少しでも得られる物が無いかと頭の中で何度も何度も先程の戦いを思い描く。必ず真っ先に伝える言葉を胸に刻みながら。
「さて、おめぇに思う所は多々あるが一先ずはあの坊主だな」
「そうさな。漸く受けた恩を返す事が出来る。それに今後も楽しみだ」
「あぁ。これからどうなるか考えるだけでワクワクしてくるってもんだ」
「そのためにも手は抜けんな」
「おう。俺らで立派に強くしてやろうぜ。お~い坊主!こっちこ~い」
何か話し込んでいたので落ち着くまで待っていた僕にお呼びがかかった。
恐る恐る近づいていく。
「よぅ。どうだった?俺らの戦いは」
「見て学べる事も多くある。そのチャンスを逃さない事もまた成長に必要な物ぞ」
「・・・正直実力が違いすぎてわからないことの方が多いです。聞きたいこともたくさんありますが・・まずは謝罪をさせてください。」
「謝罪?俺らはなんも迷惑かけられてねぇぞ?」
「勇者カイン様。魔王マディラ様。先程迄の失礼な態度誠に申し訳ございませんでした。僕に出来る事があればなんでも致します!」
もう疑う余地は無い。証拠?あの戦いを見た後でそんなものはいらない。
目の前に居る二人は間違いなく勇者様と魔王様。であれば僕がまずするのは頭を下げる事である。
信じられなかった事とはいえ伝説の人物に対してとんでもない態度をとってしまったものだと思う。
「驚いたな。先程の戦闘をみて即座にその結論に至るか・・・。やはり適正はあると見てよいな」
「ま、俺らレベルの戦いが出来る奴が今はいないって事だろ?平和でなにより。俺らが願った通りの世界になったじゃねぇか」
「であるな。では我らは我らで約束を果たすとしよう」
「だな!・・・さて坊主。今『なんでもする』って言ったよなぁ~?」
ニマァ~っと笑いながらカイルさんが僕に声を掛ける。いや頭下げてるから顔は見えてないんだけど間違いなく笑ってる。これは間違いなく。
「・・・今先程の自分の発言に恐ろしく後悔していますが、二言はありません!僕に出来ることであれば・・・なんでもします!」
「おっしゃよく言った!んじゃあ今から坊主は俺ら二人の弟子になれ!それで許してやる」
「・・・弟子?」
「そうだ。これは我も承知しておる。小僧は今この時より我ら魔王と勇者の弟子となる。異論はあるか?」
頭が話に付いていかない。不遜な態度をとってしまった事に対する処分が『弟子になれ』?ちょっと何言ってるかわかんないなぁ。
「なんでもするって言っただろ?」
「それは・・・はい」
「じゃあ決定な。坊主は今この瞬間から勇者と魔王の弟子だ!嬉しいだろ?」
「う・・・えぇ・・?」
「諦めよ。我らとしても小僧を弟子に取る事は意味のある事なのだ」
「じ・・・じゃあ、よろしくお願いします?」
「うむ」
「よろしくされてやろう!」
なってしまった。精一杯の謝罪に添えた一言の魔力によって伝説の二人の弟子に。
こんなつもりじゃあなかったんだけど。
「さて、じゃあとりあえず一段落ってことで坊主よ。何か俺達に聞きたいことあるか?なんでも良いぞ!」
「我も知っている事ならなんでも答えよう」
「いいんですか!!?」
「お・・・おう。すっげぇ食いつきだな」
「まぁこれほどの貪欲さがなければ人の身でここまでの実力は得られんかっただろうしな。良い良い!頼れる最強の師匠になんでも聞いてみよ。我の知識の深さを教えてやろうぞ!」
「じゃあなんで僕を弟子に取ろうと思ったんですか!?」
「「答えられない」」
うぉい!!なんでも聞けって言ったの貴方達ですよね!?
「え・・・。じゃあ僕の事を知っている感じだったのはなんでですか?」
「「答えられない!」」
「・・・」
え?ナニコレ。僕遊ばれてるの?なんでも答えるって言ったくせに何も教えてくれないんだけど。
「すまんが今はそれらの質問に答えることは出来んのだ。時が来れば必ず伝える事は約束しよう。」
「だから悪いんだけど別の質問にしてくれねぇか?次は絶対大丈夫だからさ」
「・・・わかりました。それらの返答は待ちます。では次の質問です」
「うむ」
「おう」
「お二人は50年前の戦いで相打ちになったとされておりますが、一体どういった経緯でこんなことになっているのですか?」
「「答えられない!!」」
もうやだこの二人。嘘ばっかじゃん・・・。
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